研究課題
基盤研究(B)
セリアック病や1型糖尿病などの自己免疫疾患、骨髄増殖性疾患、高血圧及び心血管障害の共通のリスクファクターとして、細胞内アダプター蛋白質Lnk/Sh2b3の多型や変異が同定され注目されているが、免疫寛容破綻や慢性炎症との関連は全く不明である。リスクファクターになりうる疾患群を考慮し、腸管組織障害や膵島障害の病態形成及び維持にLnk/Sh2b3の機能破綻がどのように関連するか検討を進めた。まず改良型GFPであるVenusをLnk/Sh2b3遺伝子座にノックインし、Lnk/Sh2b3発現をモニターできるレポーターマウスを樹立した。これを用いてLnk/Sh2b3発現細胞の動態、発現変化と機能を検討した。これまで報告がなされていたB細胞や造血前駆細胞以外に末梢T細胞や樹状細胞でのLnk/Sh2b3発現が確認された。T細胞でのLnk/Sh2b3発現は、脾臓やリンパ節よりも腸管粘膜固有層に存在するT細胞群で低下し組織分布によって異なること、末梢T細胞の減少時に誘導される恒常性維持増殖の際に低下することが新たに明らかとなった。末梢T細胞におけるLnk/Sh2b3欠損の影響を解析し、欠損マウスでは活性化CD8+T細胞が増加すること、この増加がCD8+T細胞のIL-15反応性亢進に因ることを見出した。組織障害に着目し検討したところ、腸管組織でも活性化CD8+T細胞の割合が増加しており、小腸遠位部の絨毛萎縮を自然発症することがわかった。絨毛萎縮はLnk欠損CD44+CD8+T細胞をリンパ球欠損マウスに移入することで再現された。Lnk/Sh2b3機能障害がIL-15反応性亢進による活性化CD8+T細胞の蓄積から腸管障害を起こすこと、セリアック病の病態形成に繋がる可能性を初めて明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、腸管での自己免疫様組織障害機構を明らかにし、セリアック病モデルとしての可能性を提示した。Lnk欠損マウスでは、IL-15への反応性亢進によりCD44を高発現するメモリー型 CD8+T細胞が有意に増加していた。さらに回腸遠位部の絨毛萎縮が自然発症することを見出した。Lnk欠損CD8+T細胞を野生型CD4+T細胞とともにリンパ球欠損(RAG欠損)マウスに移入する事により再現され、絨毛萎縮にCD8+T細胞が大きな役割を果たしていることがわかった。Lnk欠損によるIL-15反応性亢進により、CD8+T細胞の活性上昇から腸管障害に繋がるかについて、IL-15欠損との交配により検討した。Lnk欠損IL-15欠損マウスでは腸管絨毛の萎縮はみられず、IL-15に対する反応性亢進が重要であることが判明した。また、樹状細胞におけるLnk/Sh2b3の機能と免疫応答への影響について解析を推進中である。Lnk欠損マウスでは樹状細胞が増加しており、これはGM-CSFに対する感受性が増大し前駆細胞の増殖亢進が起こるためであることがわかった。さらに成熟樹状細胞でもGM-CSFによるレチノイン酸産生能の亢進、さらにIL-15への反応性亢進が起こることが明らかになった。これらの炎症性サイトカインに対する反応性の変化によるT細胞分化誘導や活性化・維持への影響について検討を進めている。
今後は免疫応答の初動に重要な働きをする樹状細胞における炎症性サイトカインに対する反応性の変化の詳細をさらに明らかにする。樹状細胞におけるLnk/Sh2b3の機能と樹状細胞機能の変化によるT細胞分化誘導や活性化・維持への影響を明らかにする。糖尿病の病態形成におけるLnk依存性制御の破綻の影響と細胞標的を解析する。1型糖尿病とLnk/Sh2b3遺伝子のSNPとの関連が報告されているが、どの細胞のどのような反応性に影響し膵島障害のリスクとなるのか全くわかっていない。膵島障害を起こすストレプトゾトシンの低容量投与により糖尿病を誘発するモデルでは免疫系の関与が必須である。このモデルを適用し、重症度や回復の度合いをLnk欠損マウス、野生型マウスで比較検討する。 Lnk-venusノックインレポーターマウスのヘテロ、ホモ欠損マウスの膵島を免疫組織科学的に観察し、炎症性兆候の有無、Lnk発現細胞の同定を行う。薬剤投与後のVenus発現細胞の動態変化を検討する。一方、Lnkは血小板においてαIIbβ3複合体の効率的なβ鎖リン酸化に必要である。造血幹細胞ではβ3鎖を含むαvβ3複合体が発現しており、このインテグリン複合体の活性化はc-Kit-L反応性に寄与し造血幹細胞の維持及び分化に関与する。そこで、Lnk欠損造血幹細胞のインテグリンリガンド存在下での反応性について明らかにする。各種刺激や病態に伴う造血誘導時のLnk/Sh2b3発現の変化、Lnk/Sh2b3発現とニッチへの反応性、ホーミング能への影響を調べる。
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