研究実績の概要 |
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の糖タンパク(gH)に対する中和抗体によりVZV感染細胞を潜伏感染へと誘導した。本研究では、強い溶解感染がいかに制御され、潜伏感染へと誘導されるか(抗原変調機構)を明らかにするために、非処理感染細胞と抗gH抗体処理感染細胞との間で、主要転写制御因子(ORF62とORF63)と細胞性転写因子Sp1との共局在を解析した。ウイルス感染後の非処理細胞に比べ、抗gH抗体処理細胞では、初期には非処理細胞と同様な分布を認めたが、ORF62とSp1との核内共局在だけでなく、ORF62とSp1は細胞質にも局在し、転写制御が異なることが示唆された。また、ORF63が細胞質内のみに認められた。抗体処理による潜伏感染化の誘導に拮抗的に作用し、7日k間の抗体処理後に感染性を保持できる薬剤として、buthionine sulfoximine(BSO)を見出した。そこで抗体処理細胞とBSO添加細胞とで、ORF62, ORF63, Sp1の局在のパターンを比較した結果、複数のパターンで有意に割合が変化していた。上記の転写因子の細胞内局在だけでなく、エピジェネティックな遺伝子発現制御を解析した。Lyticな感染細胞と、抗体処理細胞、さらにBSO添加細胞において、抗ヒストンH4抗体を用いたクロマチン免疫沈降を行った結果、クロマチン形成率は抗体処理細胞>BSO添加細胞>Lytic感染細胞の順となり、抗体処理細胞ではクロマチン形成が促進され、BSOはそれを阻害し感染性を保持できることが示された。以上の結果から、抗gH中和抗体処理による潜伏感染誘導時のウイルス遺伝子発現抑制のメカニズムとして、個別の転写因子であるORF62, ORF63, およびSp1の局在変化に加えて、ウイルスDNAのクロマチン形成促進によるエピジェネティックな遺伝子発現制御機構の介在が明らかになった。
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