研究課題/領域番号 |
25293113
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松島 綱治 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50222427)
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研究分担者 |
橋本 真一 金沢大学, 医学系, 特任教授 (00313099)
上羽 悟史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00447385)
島岡 猛士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90422279)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫制御・移植免疫 / 免疫不全 / 自己免疫 / 造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
同種造血幹細胞移植患者の生命予後およびQOLを脅かす慢性GVHD(cGVHD)の細胞・分子基盤を解明することで、その新規治療、予防法開発の基礎を築くことを目的としている。H26年度は、移植片中に混入する成熟T細胞(graft-T: gT)または骨髄前駆細胞から胸腺を経て再構築された細胞(reconstituted-T: rT)が、それぞれcGVHDの病態形成にどのような役割を果たすかについて検討した。C57BL/6→C3H.H2b minor histocompatibility antigen mismatch GVHDモデルにおいて、末梢におけるrTの再構築は、移植後21日目以降から始まり、一方gTは移植後14日目以降、徐々に減少する。移植後21日目から持続的にrTを除去する抗体をレシピエントに投与すると、投与開始早期から体重減少などのGVHD症状の増悪を認め、2週間以内に全個体死亡した。この際、標的組織に浸潤したgTにおいて、サイトカイン産生の亢進を認め、rTがgTの活性化を抑制することで、GVHD症状の増悪を抑制していることが示唆された。一方、同様のアプローチでgTを除去すると、臨床症状および移植後63日目の標的臓器におけるリンパ球浸潤像に顕著な変化を認めなかった。この際、標的臓器に浸潤したrTの細胞数は、未処置cGVHDマウスの移植後63日目と比較し、著明に増加していたことから、gTがrTの再構築および末梢組織への浸潤に抑制的に働いていることが示唆された。これらの結果は、cGVHDの標的臓器においてrTおよびgTがお互いの質・量を制御しつつ、病態形成に寄与している可能性を示唆するものである。今後gTおよびrTの間のネガティブフィードバックの細胞・分子機序を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた慢性GVHDの細胞基盤について想定以上の成果が得られている。すなわち、移植片中に混入する成熟T細胞(graft-T: gT)または骨髄前駆細胞から胸腺を経て再構築された細胞(reconstituted-T: rT)が、それぞれcGVHDの病態形成にどのように役割を果たすかについて、これまでに報告されていない、rTとgTの間のネガティブフィードバックを明らかにすることが出来た。予備的な検討では、rTおよびgTの活性化には、ドナー由来血球系抗原提示細胞が必須であるという結果も得られており、これらの研究成果をさらに深化させることで、ヒト慢性GVHDの病態形成機序の解明ならびに新たな予防・治療戦略が確立出来ると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
rTおよびgTそれぞれのT細胞集団が末梢組織において、どのような抗原提示細胞、分子により維持されているかを検討するため、各T細胞集団の同種抗原に対する直接および間接認識能を、ex vivoおよびin vivoで検証する。また、各T細胞集団のtranscriptome解析を行い、各細胞集団がどのような分子を介して慢性GVHDの病態形成に寄与しているかを明らかにする。慢性GVHDの標的臓器である肝臓の門脈領域において病的T細胞の維持に関わる微小環境の構成細胞成分ならびに分子発現を免疫組織染色、RT-PCR等により検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に慢性GVHDの病態形成におけるrTおよびgTの関与をin vivoで明らかにする、慢性GVHDの細胞機序の解析を中心に遂行した。研究を進める過程で、予想外にrTおよびgTの間にネガティブフィードバックが存在することを見いだしたたため、今年度はその詳細を深化することに注力し、当初計画していたトランスクリプトーム解析などの分子機序に関する実験を翌年度に行うこととした。そのため、トランスクリプトーム解析など、分子機序解析で予定していた試薬購入、受託費用が発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、H26年度に予定していたrTおよびgTのトランスクリプトーム解析ならびに解析結果の検証を行う。その他、慢性GVHDの標的臓器である肝臓の門脈領域において病的T細胞の維持に関わる微小環境の構成細胞成分ならびに分子発現を免疫組織染色、RT-PCR等により検索するための試薬・動物購入を行う。
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