研究課題
基盤研究(B)
IgEはアレルギーの主因であるが、IgE陽性B細胞の分化・活性化機構は不明である。また、アレルギー疾患に存在すると思われるIgE陽性B細胞の免疫記憶の実体も不明である。正常マウスのT細胞依存性免疫応答ではIgE陽性B細胞は短命のプラズマ細胞に分化しやすく記憶細胞、すなわち、記憶B(Bm)細胞や長期生存プラズマ(LP)細胞にはならないとされているが、BLNK欠損マウスではIgE陽性の記憶細胞が多数蓄積することを私たちは見出した。この結果をもとに、本研究はIgE陽性B細胞特有の分化・維持・体内動態の制御機構の解明を目標とし、まず、私たちが確立したiGB細胞培養系を用いて、IgE発現がプラズマ細胞分化を促進するメカニズムについて研究した。1.内在性IgH鎖を消失可能なiGB細胞(iGBΔH)を誘導し、εH鎖とγ1H鎖の各ドメインをそれぞれ置換した変異体をそれに導入してプラズマ細胞誘導能を検証した。その結果、εH鎖内の責任領域は細胞外領域のC3-C4ドメインにあることが分かった。また、IgEは抗原非依存的にCD19やBLNKと会合して、Aktの活性化、IRF4およびBlimp1発現を増強するシグナルを発することも分かった。2. IgEの発現はp16INK4aおよびp19Arfの発現を強く上昇させた。そこで、p16・p19をiGB細胞に強制発現させたところ、IgG1陽性細胞においてもプラズマ細胞分化が促進された。さらに、p16/p19遺伝子領域のノックアウトマウスとB細胞欠損マウスとの骨髄キメラマウスをT依存性抗原で免疫し、免疫応答を解析したが、IgE陽性のBm細胞やLP細胞の数はp16/p19が正常であるマウスと同等であった。3.BLNK欠損マウスをNP抗原で免疫し、4週後のIgE陽性およびIgG1陽性プラズマ細胞における抗NP抗体Vh186.2遺伝子の塩基配列を調べた。その結果、両者に同程度の頻度で体細胞突然変異、およびNP高親和性を示すW33L変異が認められた。よって、IgE陽性LP細胞は胚中心を経て産生されたことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
IgEとIgG1のH鎖のドメインスワップピングおよびdeletion変異体の解析から、εH鎖内のプラズマ細胞誘導の責任領域は細胞外領域のC3-C4ドメインにあることが分かった。さらなる細かい変異体を作製して解析したが、責任領域は複数箇所に存在するという結果となり、一カ所に絞ることはできなかった。おそらく、C3-C4ドメインを中心としたIgEの構造が、その特異なシグナル伝達に重要だと思われる。また、プラズマ細胞分化を誘導するIgE下流の細胞内シグナル伝達経路はほぼ分かってきた。IgEシグナルによるp16INK4a/p19Arfの発現誘導はプラズマ細胞分化誘導に寄与しているが、それのみではIgG1型B細胞にプラズマ細胞分化を誘導することはないことが分かった。さらに、BLNK欠損マウスにおいて産生されるIgE型LP細胞は正常マウスのIgG型LP細胞と同様に胚中心を経て正常に親和性成熟を起こした細胞であることが分かった。したがって、BLNKを介したIgEシグナルはB細胞が胚中心において親和性成熟を起こす以前に短命のプラズマ細胞へ分化させていると考えられた。
1.IgE細胞外領域-H-2膜貫通ドメイン融合蛋白をiGB細胞に発現させ、これと結合する分子を免疫沈降・質量分析法により特定する。次に、その蛋白の発現ベクターを作製し、特異抗体を作製するとともに、その蛋白とIgEとの結合を免疫沈降法などにより確認する。さらに、RNAiによりiGB細胞においてその蛋白の発現を低下させることで、IgE陽性細胞のプラズマ細胞分化が抑制され、in vivoにおいてIgE陽性iMB細胞への分化が誘導されるかどうかを調べる。2. iGBΔH細胞にγ1H鎖とεH鎖をそれぞれ導入し、この両細胞間で遺伝子発現の網羅的解析を行い、IgG1と比べてIgEからのシグナルによって特異的に変動する新たな遺伝子群を同定し、それらのプラズマ細胞分化における機能について解析し、さらに有望な候補遺伝子についてはノックアウトマウスの入手・作製に着手する。3.IgE陽性B細胞分化におけるBLNKの役割を包括的に探るために、野生型およびBLNK欠損マウスB細胞から誘導したIgE陽性iGB細胞を用いて、網羅的に遺伝子発現を解析する。両者で差があった遺伝子は定量的PCRで確認した上、野生型およびBLNK欠損iGB細胞においてノックダウンもしくは強制発現を行い、その細胞をマウスに移入してリンパ組織においてIgE陽性iMB細胞が維持されるかを調べる。
当初計画時の予想以上に実験が滞りなく進行し、十分なデータを蓄積するのに少ない実験回数で済んだ。そのため、抗体、サイトカイン類、マウス、プラスチック器具類の消費量が少なくて済んだ。しかし、予定していた次世代シーケンサーを用いたRNA-seqを行うまでには至らなかった。さらに、研究打合わせの旅費、実験補助、学術誌投稿料を使う必要がなかった。さらに研究を加速して遂行するために必要な消耗品を購入する。具体的には、試薬類、抗体、サイトカイン、マウス、ディスポーザブル・プラスティック器具類を購入する。また、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqにより網羅的遺伝子発現解析を重点的に行う。
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PLoS One
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J. Clin. Invest.
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10.1172/JCI70626