研究実績の概要 |
オーファンP450に分類されるCYP2U1, CYP4X1, CYP4Z1等の脱オーファン化を目的に、①酵素機能・分子構造学的特性の解明、及び②病態生理学的意義の解明を目指した。 大腸菌による各オーファンP450分子種の組換え酵素の発現条件を種々検討したが、本発現系では、各分子種が活性を有しないP420として発現しており、酵素機能・構造の解析に用いることができなかった。一方、ポジィティブコントロールとして用いたCYP2C9は、大腸菌による発現系で活性を有するP450として発現しており、ロサルタンをリガンドとしたX線結晶構造解析により、基質の結合に重要なアミノ酸残基を明らかにした。またバキュロウイルスーカイコ発現系により、発現量は低いものの、活性を有するCYP2U1をミクロソーム画分中に発現させることに成功した。本ミクロソームを材料としたCYP2U1の内因性基質の探索が今後の課題である。 日本人の乳がん患者の腫瘍部において、CYP4Z1が高発現している症例が見出され、海外での報告と一致した。さらに今年度は、同じくオーファンP450に属するCYP2S1、及びCYP4V2のmRNAの発現を解析し、CYP2S1が一部の症例で腫瘍部に高発現していることを見出した。臨床情報との関連解析を継続し、高発現患者における臨床的特徴を明らかにする予定である。さらに、メタボローム解析により、生理活性を有する一部の酸化脂肪酸分子種が腫瘍部に高いレベルで存在することを明らかにした。乳がん組織における脂肪酸代謝物レベルと各P450分子種のmRNA発現量との関連解析を進め、一部の代謝物レベルがオーファンP450の発現量と有意に相関することを見出した。これらの脂肪酸代謝物はオーファンP450による酸化反応の代謝物である可能性も考えられ、in vitroの発現系を用いて検証する必要がある。
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