研究課題/領域番号 |
25293134
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
清水 弘樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (30344716)
|
研究分担者 |
奥田 徹哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (20443179)
鈴木 哲朗 浜松医科大学, 医学部, 教授 (00250184)
松岡 浩司 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40272281)
松尾 一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40342852)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 糖 / 糖鎖 / 糖ペプチド / 抗体 / C型肝炎 |
研究実績の概要 |
C 型肝炎ウイルス(HCV) の表層糖タンパクE2のアミノ酸配列はHCV株間で保存性が小さく多様性に富んでいるため,汎用的なE2 検出抗体は確立されていない。しかし,表層抗原のため抗体検出が容易であること,更にはHCV 中和抗体の主要なエピトープを含むことから,目的抗体が開発できれば株間に依存しないHCV 迅速検出系の開発や,有用なHCV 中和抗体の創出が期待できる。本研究では,E2 の中でもアミノ酸配列の保存性が高い糖鎖付加領域に着目し,当領域の糖ペプチド抗原をデザインすることで目的を満たす特異性の高いモノクローナル抗体の開発を目指し,さらにHCV 診断法の確立を指向した基盤研究展開を計る。 目的とする抗体の作製のためには,まず免疫に必要な糖鎖ペプチド抗原を供給する必要がある。その合成は大変困難を見たが,昨年度までに当初の予定を改良して合成可能なことを見出した。本年度は,大量合成に向けて糖アミノ酸調製を予定していた酵素法から化学法に変え,引き続き糖鎖ペプチド抗原の合成を行った。最終物の精製は依然困難を見ているが,合成純度を向上させることで精製せずに免疫に利用できると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年12月までは,平成26年度事業を延長して,平行して研究を進めた。当初は平成26年度中に糖ペプチド抗原の合成をおこない,抗体作製と抗体評価を平成27年度に先駆けて前倒しで進める計画であった。しかし,糖ペプチド抗原の合成は非常に困難であったが,平成26年度中にはその合成法を確立することに成功した。そして平成27年度には、糖鎖合成部分を当初予定していた酵素法から大量合成可能な化学法に変更し、免疫抗原として必要量の調製を行った。
今年度はまず,糖鎖ペプチド合成の重要なシントンである糖アミノ酸の合成をおこなった。当初は,汎用のN-グリカン単糖アミノ酸(GlcNAc-beta-Asp)を基質として酵素法によりハイマンノース型5糖を構築する計画であった。しかし,糖鎖ペプチド抗原の合成ルートの変更に伴い,大量スケールでの糖鎖導入が必要となったため,化学合成法にて5糖N-グリカンを合成した。 引き続き,マイクロ波利用ペプチド合成機を利用して糖鎖ペプチドを固相上で合成し,さらに抗原キャリアの導入をおこなった。その後,固相担体から切り出して,目的とする糖鎖ペプチド抗原を現在約40mg得ている。 そして得られた糖鎖ペプチド抗原の精製を試みたが,同一分子内に脂溶性部と水溶性部が共存しているため大変困難であり,通常のHPLC精製では大幅な収量ロスが生じた。一方,マイクロ波を利用したアミノ酸伸長を行っているため,合成純度が非常に高く糖鎖ペプチドが得られていると考えられることから,粗精製物でも免疫に十分な純度が得られている可能性も高い。この点については,現在検討中である。
|
今後の研究の推進方策 |
まず,清水と松尾らにより糖鎖ペプチド抗原の必要量を必要純度で合成する。 そして分担者である奥田らが有する糖鎖認抗体作製法を応用して合成した糖鎖ペプチドを認識する抗体を作製する。奥田らは,標的糖鎖を長鎖炭化水素にて修飾してアジュバンドとしてLipid A を含む脂質リポソームとしマウスへと免疫することで最終的にモノクローナル抗体を得るという,長鎖炭化水素を抗原キャリアとする新規なオリゴ糖鎖/糖タンパクに対する抗体作製法を確立させた。本方法は,糖鎖および糖タンパクは一般に免疫原性が低いが,これらを抗原として高効率に抗体を得られる様最適化されたものである,本法を利用して,合成されたC型肝炎ウイルス表層糖タンパクの糖ペプチド部を用いた免疫誘導をおこなう。 引き続きモノクローナル抗体を作製し,鈴木らにより, 培養細胞系でのE2 結合能(HCV 検出能)とHCV 感染阻害能の評価などを進める。作製した抗体がHCV 粒子のE2 糖タンパクを認識,結合するかを調べ,次に,臨床検体を用いてE2 検出能の評価をおこなう。抗糖ペプチド抗体によるC 型肝炎患者の血中E2 糖タンパクの検出レベルをウエスタンブロッティング法,免疫沈降法によって評価し,糖ペプチドによる中和抗体検出能の評価をおこないたいと考えている。 さらに,松岡らにより抗体を利用したデバイス開発と研究を展開させる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は抗原の合成後,免疫,モノクローナル抗体の作製を進める計画を立てた。しかし,ターゲットとした糖鎖ペプチド抗原は同分子内に脂溶性と水溶性が共存することからその合成や精製が非常に困難であったため、先に記述したとおり、平成27年度までその調製に時間を要した。そのため、免疫,モノクローナル抗体の作製などの研究が平成28年度にずれ込んだため,次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
免疫実験の環境を整えた後,速やかに遂行し,モノクローナル抗体の作製,その評価へと研究展開する予定である。現在,5月中から免疫をはじめるべく準備している。助成金の約430万円が次年度使用額となったが,免疫にかかる費用として100万円,モノクローナル抗体作製に70万円,抗体評価等に100万円,人件費に140万円,旅費含めたその他20万円をいう概算目論見を有している。
|