研究課題
「痛みはなぜ苦痛なのか」という問題に答えることを目指し、脊髄(三叉神経)-腕傍核-扁桃体路を介して伝えられる侵害受容情報が恐怖学習および慢性痛の成立において担う役割を解明すべく以下の研究を進め成果を上げた。(1)【マウス腕傍核-扁桃体路の薬理学的抑制は恐怖学習を抑制する】聴覚刺激を条件刺激、四肢への電気ショックを無条件刺激とした恐怖学習において、学習時に薬理学的に神経活動を抑制したところ、24時間後の想起実験におけるすくみ時間が有意に短縮した。(2)【マウス腕傍核-扁桃体路の光遺伝学的活性化は恐怖学習を成立させる】腕傍核にchannelrhodospin (ChR2)発現アデノ随伴ウィルスベクターを感染させ、両側扁桃体中心核にLEDを光源とする小型光ファイバーを装着し、無条件刺激の代わりに光刺激を行って恐怖学習課題を行ったところ、想起時のすくみ時間が有意に延長した。(3)【腕傍核ChR2発現ラットの扁桃体スライスにおける光刺激誘発シナプス後電流は、単シナプス性興奮性応答に加え、多シナプス性フォードフォワード抑制を扁桃体中心核ニューロンに生じさせる】光刺激によって、TTX感受性単シナプス性興奮性応答が誘発された。その振幅は下肢足底ホルマリン皮下注射の24時間後有意に増加した。(4)【ラット炎症性疼痛は扁桃体中心核シナプス伝達増強と全身性痛覚過敏を生じる】ラット口唇部皮下へのホルマリン注入によって三叉神経炎症性疼痛モデルを作成した。炎症の左右にかかわらず、6、および、24時間後に右側腕傍核-扁桃体中心核シナプス伝達増強が、また、3-48時間後に機械性アロディニアが両下肢に生じ、自発的温度指向性テストにおける低温忌避傾向が認められた。以上より、腕傍核-扁桃体路が痛みの全身化を伴う慢性痛の成立と恐怖学習および情動性行動に必要かつ十分に関与する事実を明らかとした。
1: 当初の計画以上に進展している
腕傍核-扁桃体路系の意義に関して、計画以上に研究が進捗している。論文も2報発表済、2編投稿済であり、現時点における十分な成果が上がっている。この数年間の実験技術の進歩に伴い、より正確な分子発現操作をすべく一部実験計画を変更しているため、その部分に関しては予定通りの進捗となっていない箇所もあるものの、「痛み情動の成立における腕傍核-扁桃体論の意義の解明」という研究目的に向けて、概ね順調に進んでいる。
本研究計画の採択時からin vivo動物における分子発現およびその機能の人工的操作技術が飛躍的に進歩したため、それらを導入してさらに精密かつ効果的な腕傍核-扁桃体路の活動制御を行う。具体的には、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)遺伝子にCre組換え酵素を発現させたマウス、および、VGAT遺伝子下流にCre組換え酵素を発現させたラットを用いて、DREADD法によりこれらの神経を選択的に抑制もしくは活性化し、恐怖学習および慢性痛の成立における影響を評価する予定である。
ほぼ計画通り研究が進捗している。物品費・旅費等は概算に基づき適切かつ計画的に経費を使用しているところであるが、最終的な経費算出の結果、節約に伴う少額の差額が生じたため次年度に使用することとした。
消耗品購入費に充てる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (17件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
Molecular Brain
巻: 8 ページ: 22
10.1186/s13041-015-0108-z
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http:www.jikei-neuroscience.com/website/research_activities