研究課題/領域番号 |
25293136
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
加藤 総夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20169519)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 扁桃体 / 腕傍核 / 恐怖学習 / 慢性痛 / 情動 / アロディニア / 光遺伝学 / チャネルロドプシン |
研究実績の概要 |
「痛みはなぜ苦痛なのか」という問題に答えることを目指し、脊髄(三叉神経)-腕傍核(LPB)-扁桃体路を介して伝えられる侵害受容情報が恐怖学習と慢性痛の成立において担う役割を解明すべく以下の研究を進め成果を上げた。 (1)【マウスLPB-扁桃体路の光遺伝学的活性化は恐怖学習を成立させる】腕傍核にchannelrhodospin (ChR2)発現アデノ随伴ウィルスベクターを感染させ、両側扁桃体中心核(CeA)にLEDを光源とする小型光ファイバーを装着し、無条件刺激の代わりに光刺激を行って恐怖学習課題を行ったところ、想起時のすくみ時間が有意に延長した。 (2)【LPB内ChR2発現ラットの扁桃体スライスにおける光刺激は、CeAニューロンにシナプス性およびネットワーク性の活動を生じさせる】光刺激によってCeAニューロンに単シナプス性興奮性応答が誘発され、その振幅は下肢足底ホルマリン皮下注射24時間後に有意に増加した。また、CeA外包亜核よりも内側亜核で有意に高頻度高振幅の多シナプス性抑制性入力が観察された。CeAからの出力はCeA内抑制回路による高度の統合を受けている事実が明らかになった。 (4)【ラット炎症性疼痛は扁桃体中心核シナプス伝達増強と全身性痛覚過敏を生じる】ラット口唇部皮下へのホルマリン注入によって三叉神経炎症性疼痛モデルを作成した。炎症の左右にかかわらず、3時間後に両側LPB、および、右CeAのFOS発現細胞数が有意に増加し、また、6、および、24時間後にLPB-CeAシナプス伝達増強が右のみ増強した。加えて、3-72時間後に機械性アロディニアが両下肢に生じ、これは、右CeAへのCGRP受容体遮断薬微量注入によって有意に抑制された。 以上より、腕傍核-扁桃体路が痛みの全身化を伴う慢性痛の成立と恐怖学習および情動性行動における主要かつ直接的な役割を担う事実を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
腕傍核-扁桃体路系の意義に関して、計画以上に研究が進捗し、すでに3報論文公表した。さらにもう2報準備中である。十分な成果が上がったと評価する。「痛み情動の成立における腕傍核-扁桃体論の意義の解明」という研究目的は達成され、世界的にも注目される成果となり、これからの痛み情動研究の流れを変え得る重大な成果である。現在、英文総説を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で明らかになった腕傍核-扁桃体路系の二つの機能(①情動学習の教師信号としての役割、および、②局所的な炎症性疼痛によって誘発される異所性、もしくは、全身性の痛覚過敏)の発現に関与する神経・分子機構を解明する研究をそれぞれ推進している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本事業によって、期待通り、あるいはそれ以上の成果を上げることができた。すでに論文公表も行ったが、2月1日現在、投稿作業を進め、編集者・査読者とのやりとりをしている論文が3報あり、その英文校閲費、刊行費、追加実験の費用が今後必要となる。年度末までにすべて必要な会計手続きが終了しない可能性があるため、その分だけ、年度を超えて使用させていただくよう事業期間延長を申請する。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに投稿してある論文につき、page charge、著作権料などを支払う予定である。
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