研究課題/領域番号 |
25293163
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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研究分担者 |
林 哲也 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 教授 (10173014)
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 法医学 / 溺死 / 水棲微生物 / プランクトン / 454-pyrosequencing |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,最新の遺伝子解析技術(Roche GS Juniorによる454-pyrosequencing法)を利用して,水中死体の肺及び血液中に存在する多様な微生物を明らかにし溺死の診断に役立てることである. 本年度(平成26年度)は,溺死2例14試料(海水溺死1例, 7試料;淡水溺死1例, 7試料),及び非溺死4例22試料(水辺近くで発見され,解剖所見,現場の状況,警察の捜査などから溺死の可能性は低いと判断されたものの,溺水の吸引を完全に否定できなかった事例)について,454-pyrosequencing解析を行った.その結果,溺死例と非溺死例では明らかに肺(右肺下葉内部,左肺上葉辺縁部)や血液(左心血,右心血,大腿静脈血)中に存在する細菌相に特徴的な違いがみられ,溺死であれば溺水の種類によって,特定の水棲細菌(Vibrio, Photobacterium, Aeromonas)が優勢的に増殖していることが示された.また,各事例については珪藻の検出や培養による生菌の検出(平板培養後に 16S rRNA遺伝子解析)等を同時に行った.これらの結果は,水棲細菌の検出が溺死の診断に役立つことを示唆してきた我々のこれまでの研究の結果を支持するものであった.最終的には,計15~20例程度(海水溺死7例,淡水溺死7例,非溺死6例程度)の解析を終了させ,それらの結果をまとめ,国際誌に投稿する予定である. また,溺死に関する本研究を進めていく上で,珪藻の検査は必要不可欠であるが,従来の珪藻検査は,非常に煩雑であるだけでなく、発煙硝酸を用いるため非常に危険である.そこで我々はこれに代わる検査法の確立が本研究を遂行していく上でも急務と考え,タンパク質分解酵素を用いて迅速に肺組織から珪藻を安全かつ簡便・迅速に検出可能な方法を開発した.本法は, 実際の法医実務鑑定に役立ち,溺死の診断に大きく貢献できたことからTechnical Noteとして論文にまとめ,国際誌に投稿し採択された (Forensic Sci Int 2015).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに,解剖事例6例計36試料(海水溺死1例, 7試料;淡水溺死1例, 7試料;非溺死例4例22試料)について,最新の遺伝子解析技術(454-pyrosequencing法)を用いて肺や血液中に存在する微生物の網羅的解析を行い,その成果が今後溺死の診断に役立つ可能性を見い出した.またこれらの成果は,これまでに我々が行ってきた溺死の診断に関する研究結果を支持するもので,有益な成果であった.一方,従来の珪藻検査に代わる安全かつ簡便・迅速な方法の確立は,溺死の診断に急務であると考え,我々は市販の酵素を用いて迅速に肺組織から珪藻を検出可能な方法にも取り組んだ.この方法は, 実際の法医実務鑑定に役立ち,その成果は国際誌に採択された(Forensic Sci Int 2015).
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今後の研究の推進方策 |
現在,さらに解剖事例7例を追加して検査を行い,肺および血液試料からDNAの抽出・精製,16S rRNA遺伝子の増幅・精製までを終了している.今後引き続き,これらの試料の454-pyrosequencingとその解析を進めていく.また,最終的には残りの事例(2例~7例)の海水・淡水溺死例及び非溺死例について,DNAの抽出・精製,16S rRNA遺伝子の増幅・精製,454-pyrosequencingとその解析を行い,計15~20例程度(海水溺死7例,淡水溺死7例,非溺死6例)の解析を終了させる予定である.また,各事例の試料については,従来ルーチンで行っている壊機法によるプランクトン検査(珪藻検査)や選択平板培地を用いた水棲細菌の検査も同時に行い,解剖所見や454-pyrosequencingの結果と共に比較検討する. 得られた研究成果は論文にまとめ,国際誌に投稿する予定である.また国際学会等にも積極的に参加し,本研究の成果を広く発信したい.
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