研究課題/領域番号 |
25293166
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
磯部 健一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20151441)
|
研究分担者 |
祖父江 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20148315)
大橋 憲太郎 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50332953)
伊藤 佐知子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70447845)
西尾 尚美 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80513457)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 老化 / ストレス / 生活習慣病 |
研究実績の概要 |
本研究では私たちが解析してきたGADD34遺伝子欠損マウス(KO)を中心に、老化に伴って発症する疾患の発症メカニズムを、疾患発症が想定されるストレスをかけて解析すること、また、iPS細胞を作製し、その分化細胞投与で、治療に結びつけようとして始めた。まず、COPDのモデルマウス実験で、タバコに含まれるアクロレインによる肺障害のモデルを開発した。アクロレインは肺組織を傷害し、肺にマクロファージが浸潤してくること、それがさらに傷害を増強することを見いだした。アクロレインはDNA傷害性ストレスの他にERストレスを誘導し、eIF2aの脱リン酸化にGADD34が関与することで、WTマウスに活性酸素が強く産生され、肺障害が強く現れた。私たちはGADD34 KOを自然老化させると、肥満になり、耐糖能、さらに脂肪肝、肝硬変、肝臓癌と進展することを見いだした。そのメカニズムはRonらの提唱するERストレスよりも、むしろ、GADD34がインスリンシグナル伝達系に関与することを明らかにした。さらに、GADD34KOは若いときはインスリンシグナル伝達系が亢進しているが、老化に伴って逆転し、インスリン抵抗性になることを明らかにした。高脂肪食投与でもGADD34KOは肥満になり、自然免疫系細胞の浸潤からTNFaが産生され、インスリンシグナルを抑制することを明らかにした。一方、GADD34KOに肝臓発ガン剤を投与してみた。すると、発ガン物質DENによってGADD34発現が肝臓で上昇し、WTマウスで、肝臓に炎症性細胞が浸潤し、WTマウスがより強く肝がんを発症した。この一見、反対の現象はGADD34が脱リン酸化酵素PP1と結合し、シグナル伝達系の異なるターゲット分子の脱リン酸化をすることを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は高齢者の疾患の発症が生体にかかるストレスとそれに対する生体のストレス応答から生じるとする考えから、マウスをモデルとして、老化関連疾患を解析し、その治療戦略をたてることにある。これまで、COPD解析ではERストレス、それに関連する活性酸素ストレスが肺病変を誘導することで2つの国際誌に論文を発表した。私たちは、これまでずっと解析してきたGADD34KOを使用して、まず、自然老化でどのような疾患が発症するかを検索した。すると、GADD34KOは老化に伴い肥満してくることがわかった。さらに詳しく検索すると、肥満から、脂肪肝、糖尿病、肝硬変、肝がんに移行することを明らかにした。肥満からの糖尿病の発症メカニズムとして、GADD34遺伝子移入マウスでRonらのグループはER ストレスが関与することを明らかにしている。私たちは老化に伴う変化を詳細に解析したところ、若いGADD34KOマウスではインスリンシグナルが亢進していること、老化に伴ってGADD34KOではインスリンシグナルが逆転することを見出した。発癌剤投与で、自然発癌とは逆にWTマウスはより強く肝がんを発症する予想外の結果を得て国際誌に掲載予定である。さらに発癌剤による大腸の発癌実験でもWTマウスに炎症と癌が好発したことから、DNA傷害性刺激ではGADD34の作用点が食事による刺激とは異なることを意味する。これらの成果は学会発表を終え、現在投稿中である。一方、私たちは老化マウスからiPS細胞を樹立し、この細胞を分化し、様々な疾患(糖尿病合併症、動脈硬化)へのモデル実験を行い、国際誌にも数編発表した。さらに私たちは自己の骨髄からマクロファージ細胞株を誘導することに成功し、M2マクロファージに分化させることでマウスの創傷治癒を促進させることに成功した(Plos One 2014)。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は次の点に重点を置いて研究を進める。まず、GADD34KOが老化に伴い、肥満、糖尿病、肝硬変、肝がんといった生活習慣病から発症する重要な疾患のモデルマウスとなることから、このメカニズムの詳細な解析を行う。若いGADD34KOはむしろインスリンシグナルが亢進しているため、若いマウスでのインスリンシグナルのどの段階にGADD34が関与するかをシグナル伝達系の解析で明らかにする。GADD34KOあるいはWTマウスの肝臓細胞を培養し、インスリンで刺激する。老化に伴って、インスリンシグナル伝達系がGADD34KOでWTマウスに比べて低下するメカニズムの解明に関して、生体に高脂肪食投与で時間とともにインスリン抵抗性の変化をみる。また、脂肪酸を培養肝臓細胞に作用させ、その後インスリンを作用させ、インスリン抵抗性の変化をみる。RonらのグループはGADD34はERストレスを抑制してインスリン抵抗性を押さえるとする結果を報告している。我々もCOPDの研究ではERストレスの関与を報告している。GADD34KOの肥満から糖尿病、あるいは脂肪肝、肝硬変への移行にERストレスが関与するか否か、最終年度に明らかにしたい。GADD34はDNA傷害性ストレス刺激で誘導され、WTマウスに炎症、発癌がより強く誘導される。これは一見、GADD34遺伝子欠損マウスの自然経過の発癌と矛盾した結果である。最終年度はAOM/DSSの大腸がん発癌実験で炎症、大腸がんの研究を進める。この場合腸内細菌のトランスロケーションが炎症性ストレス刺激となっている可能性が出ている。GADD34の作用点を明らかにする実験とどの種類の腸内細菌が大腸がんを誘導するかを明らかする実験を行う。最後に再生的治療戦略のための実験はiPSあるいは骨髄由来マクロファージの疾患モデルへの投与実験を引き続き行っていく。
|