研究課題/領域番号 |
25293170
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岡本 隆一 東京医科歯科大学, 再生医療研究センター, 教授 (50451935)
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研究分担者 |
土屋 輝一郎 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄附講座准教授 (40376786)
中村 哲也 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄附講座教授 (70265809)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸管上皮 / 炎症性腸疾患 / 幹細胞ニッチ / Notchシグナル / オルガノイド |
研究実績の概要 |
本年度は腸管上皮幹細胞ニッチにおけるDll1及びDll4陽性細胞の機能的意義の解析について引き続き解析を進めた。 1.LGR5-EGFP-CreERT2マウス及びATOH1-CrePGRマウスを用い、幹細胞又は分泌型細胞特異的にDll1及びDll4の欠損を誘導可能なマウスを作成し、その表現型について前年度に引き続き解析した。その結果、LGR5-EGFP-CreERT2マウスにおいて両リガンドの欠損を誘導することにより杯細胞・内分泌細胞が著しく増加することに加え、Notchシグナルの標的遺伝子であるHes1を発現する細胞が著減することが明らかとなった。また、幹細胞ニッチ領域に於いてLysozyme陽性細胞が著増し、正常な幹細胞ニッチ構造の維持が困難となる可能性が明らかとなった。 2.一方、LGR5-EGFP-CreERT2マウスを用い、幹細胞特異的にRBPJの欠損を誘導可能なマウスを作成し、Notchシグナルのcanonical経路を遮断し、その表現型についても解析を行った。その結果、上記のDll1及びDll4欠損と比較し、その表現型である分泌型細胞(杯細胞・内分泌細胞・タフト細胞・パネート細胞)の増加はわずかに留まり、かつ幹細胞ニッチ領域における構成細胞の変化もごく軽度であった。 3.上記にて作成した幹細胞特異的にRBPJの欠損を誘導したマウスの腸管上皮陰窩を単離し、オルガノイドを作成した。その結果、幹細胞におけるRBPJ欠損誘導下に於いても、オルガノイドの構成は可能であり、継代による持続的なオルガノイドの再構成能も保持していた。 これらの結果から、腸管上皮幹細胞ニッチにおいてDll1及びDll4リガンドにより活性化されるNon-canonicalなNotchシグナル経路が適正な構成細胞の保持に重要な役割を有している可能性、が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究推進により、Dll1及びDll4リガンドが正常腸管における幹細胞ニッチ構造の維持に重要な役割を果たしていること、についてより詳細な検討が進められただけでなく、RBPJ欠損マウスと比較することにより、重要な細胞内経路についても解析が進展した。当初予想に反し、腸上皮幹細胞におけるRBPJ欠損により誘導される表現型は、Dll1及びDll4リガンドの欠損により誘導される表現型と比較し、著しく軽度の変化に止まり、幹細胞ニッチ構造の明確な破綻も観察されていない。この結果は、canonical経路と称されるNotch シグナル経路について、これを容易に代償し得る未知の分子機構が腸上皮幹細胞に内在することを示した重要な知見であると考えている。一方、Dll1及びDll4リガンドの欠損により幹細胞ニッチ構造の維持が困難となったことから、同構造の維持にはリガンド-受容体相互作用を介したnon-canonical経路が重要な役割を担っているという、新たな分子機構が存在する可能性が示された。今回明らかとなったリガンド-受容体相互作用を介したnon-canonical経路により幹細胞ニッチ構造が制御される可能性については、炎症粘膜の再生過程においては主にDll4リガンドにより担われていることが想定され、本研究が課題として取り組んでいる再生腸上皮幹細胞ニッチを制御する分子機構について、in vitro培養系も用いる事により新たな知見の獲得に成功している。従って本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は確立済みの体外培養技術を用いる事により、「再生腸上皮幹細胞ニッチ」の体外再構築を効率良く実施可能な手法の開発を引き続き実施したい。候補化合物の探索に際しては腸上皮細胞が受容体を発現する生体内生理活性物質及びその誘導体を対象に加え、これら候補化合物を添加した際のin vitroにおける増殖・分化等の応答について、解析を進めたい。併せて化合物スクリーニングを効率良く進める事を可能とする新規評価系の構築・改善も推進する予定としたい。効率化上記研究の推進により、適切な「再生腸上皮幹細胞ニッチ」の体外再構築が効率良く誘導可能となった際にはDSS腸炎を初めとする動物モデルを用いた解析を進める計画である。併せて、本研究は炎症性腸疾患の病態解明及び治療法開発を最終的な目的に掲げていることから、炎症性腸疾患の患者検体を用いた「再生腸上皮幹細胞ニッチ」の体外再構築も十分視野に入れ、今後の研究を推進する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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