研究課題
B型慢性肝炎(発がん)モデル(Nakamoto et al.: J. Exp. Med. 1998; Cancer Res. 2004)における網羅的発現解析(DNAチップ)で、これまでに炎症性発がんに特有の遺伝子群/細胞内シグナル径路(Cluster 2:119個の遺伝子)が得られている。そこで、遺伝子の発現変化に影響したゲノム・エピゲノムの変異・修飾を検出してドライバー変異の候補を選択する計画を実施した。(1)発現遺伝子プロファイル解析: 経時的な発現解析において、Cluster 2の発現レベルが炎症反応には依存せず、前がん状態やがん組織において顕著に低下することが分かった。(2)宿主ゲノム塩基配列解析(プロモータ領域を含むリシーケンシング): (1)においてがん化過程での発現低下が検証された遺伝子について、次世代シーケンサーを用いたハイスループット核酸解析技術によりゲノム変異を探索した。a.ゲノムDNA抽出→b.ターゲット領域濃縮→c.高速シーケンス、の手順で各肝組織(前がん5個、がん5個、対照5個)から約26,000,000~64,000,000リードのデータが得られた。リードデータのトリミングを行った後に変異解析に用いた。Cluster 2遺伝子のプロモータ領域内での変異(rSNP:regulatory SNP)やコード領域エキソン内での変異(cSNP:codong SNP)に関して経時的な比較を行った。がん組織において、1%以上の頻度でアミノ酸配列の非同義変異が特異的に認められる遺伝子が24個認められた。この中で、複数のがん組織にわたって変異がみられる遺伝子は9個であり、同一組織内で複数の変異が集積する遺伝子は5個であった。今後、遺伝子の発現変化に影響する(3)宿主エピゲノム解析、についても計画されている。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、平成26年度は(1)-(3)および(4)変異ゲノムの機能的解析、が計画されていた。(1)および(2)はほぼ完了している。(2)において膨大な実験・情報量の処理に時間を要していることから、(3)(4)への進展がやや遅延しているものの、おおむね順調に進行しているものと考えられる。
当初の計画通り、今後は(1)(2)に加えて以下の研究を予定している。(3)宿主エピゲノム解析: 遺伝子の発現低下の機序として、塩基配列の変化に加えて、エピゲノム(メチル化)による修飾が加わっている可能性がある。(2)の塩基配列解析と同様に、メチル化されたDNAを濃縮して、メチル化の程度が変化したゲノム領域(DMRs:Differentially Methylated Regions)を検出する。発症前の肝組織のデータを対照として、経時的組織における変化をゲノムマップ上に配列する。(4)変異ゲノムの機能的解析: (2)(3)において発現低下への関与が示唆された変異ゲノムについて、細胞株(ヒト・マウス肝がん由来、不死化ヒト肝細胞)に導入することによって発現調節作用および形質転換作用を検討する。a.発現解析、b.細胞増殖、c.アポトーシス、d.細胞周期、e.造腫瘍性について解析する。さらに、(5)分化誘導培養での評価、(6)変異ゲノムを標的とした治療効果の検討、へと推進する方針である。
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