研究課題/領域番号 |
25293173
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (70235282)
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研究分担者 |
渡邊 丈久 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (20634843)
直江 秀昭 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (30599246)
荒木 令江 熊本大学, 生命科学研究部, 准教授 (80253722)
藤元 治朗 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (90199373)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝癌 / 細胞死抵抗性 / 翻訳後修飾 / プロテオミクス / 遺伝子解析 / 燐酸化 |
研究実績の概要 |
癌を取り巻く環境としての慢性炎症や低酸素状態は、遺伝子発現や、翻訳後修飾を介した蛋白質機能の変化をもたらし、癌細胞の生物学的特性の時空間的な獲得に関与している。 これまでに、慢性炎症に伴い発生する活性酸素(過酸化水素)の刺激下の複数の肝癌細胞を対象に、2次元デイファレンシャル電気泳動を用いた網羅的蛋白質発現解析、ならびに翻訳後修飾を行い、刺激前に比して刺激後に有意に変化するスポットから、約30個の燐酸化蛋白質を同定した。その多くが細胞骨格制御因子や分子シャペロンに分類された。その1つであるNucleophosmin (NPM)について、遺伝子発現解析と統合したネットワーク解析を行うと、NPMが細胞死誘導遺伝子の発現を抑制する可能性が示唆された。 そこで、siRNAによりNPMの発現を低下させると、活性酸素、抗がん剤、分子標的治療薬などに対する抵抗性が減弱し、細胞死が増強した。逆に、NPM強制発現細胞では上記刺激に対する抵抗性が増強すると共に、細胞増殖能の亢進がin vitro, in vivoで確認された。 一方、NPMの機能を燐酸化が担うことが予想される。そこで、燐酸化部位である第191番目のアミノ酸スレオニン(T)をアラニンに置換した非燐酸化NPMの発現ベクターを作成し、HepG2肝癌細胞に導入してstable transfectant(非燐酸化型)を作成した後、siRNAにて内因性のNPMを抑制した。そのうえで、細胞死刺激を与えると野生型に比化は減弱した。一方、後者ではsiRNAにて内因性NPMを減弱させても増速速度の抑制程度はして細胞死刺激に対する感受性が亢進した。他方、肝癌の分子標的治療薬を野生型あるいは非燐酸化型の肝癌細胞に添加すると、前者の増殖は抑制されると共に内因性NPMの燐酸極めて軽度なものであった。 このように、肝癌細胞の生物学的特性におけるNPMの働きとして、蛋白質そのものは無制限な細胞増殖能に、燐酸化はむしろ細胞死抵抗性に関連することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、肝癌細胞の治療抵抗性の分子基盤の一つである細胞死抵抗性に焦点を当て、多くの候補分子群を見出した。NPMの機能解析にめどが付いてきており、他の分子群の機能解析にとりかかり始めている。それらの結果を踏まえて、統合ネットワーク解析等を駆使し、候補分子間の階層性を把握する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肝癌の治療抵抗性は、細胞死抵抗性、無制限な細胞増殖能、転移浸潤能、血管新生能などの肝癌細胞の生物学的特性が担っているため、当初の計画に沿って各々の生物学的特性の候補責任分子群を明らかにする。また平成26年度の研究経過より、候補責任分子群は、多岐にわたる機能を有することが明らかになった。例えば、細胞死抵抗性を担う候補分子が、細胞増殖にも関与する場合がある。そのため、候補分子群の機能を多方面より解析し、より効率的な治療戦略を、肝癌治療抵抗性を克服するために構築していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
肝癌の治療抵抗性の分子基盤は多岐にわたり、単年度では研究が完遂できない。そのため当初の計画に基づき、肝癌の分子生物学的特性を同時進行で解析していく必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究経過より、肝癌の有する生物学的特性を担う候補分子は、複数の特性に関与することが明らかになった。そのため、候補分子の機能を多面的に解析し、より効率的な機能解析を行う予定である。
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