研究課題
慢性炎症刺激下の肝癌細胞を用いた網羅的翻訳後修飾解析から、有意に燐酸化が変化する約30個の蛋白質を同定した。その多くが細胞骨格制御因子や分子シャペロンに分類された。その1つであるNucleophosmin (NPM)は、バイオインフォマテイクスより細胞死誘導遺伝子を抑制する可能性が示された。そこでsiRNAによりNPMの発現を低下させると、活性酸素、分子標的治療薬、IFNαなどに対する抵抗性が減弱した。逆に、NPM強制発現細胞では抵抗性が増強すると共に、細胞増殖能も亢進した。NPMでは燐酸化が蛋白質機能を担うことが予想されるため、燐酸化部位の第191番目のアミノ酸スレオニン(T)をアラニン(A)に置換した非燐酸化NPMの発現ベクターをHepG2細胞に導入してStable transfectantを作製した。次にCREISPR/Cas9を用いて行い、内因性NPMを抑制し非燐酸化型TA mutantを作製した。その結果、野生型に比してTA mutantでは細胞死感受性が増強することが明らかになった。また、分子標的治療薬を野生型やTA mutantに添加すると、野生型の増殖は抑制され内因性NPMの燐酸化は減弱する一方で、TA mutantでは増速の抑制はほとんど認められなかった。以上から、NPMの蛋白質そのものは癌細胞の細胞増殖能に、燐酸化は細胞死抵抗性に関連することが示された。一方、ヒト肝癌組織では、NPMならびにp-NPM(燐酸化NPM)は非癌部に比べ発現が有意に亢進し、p-NPM高発現症例では、再発までの期間が有意に短縮された。またELISAの系を開発し血中NPM濃度を測定すると、健常者に比し慢性肝疾患では血中濃度が有意に上昇すること、担癌患者では切除前に比し切除後有意に濃度が低下することから、バイオマーカーの可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27度は、肝癌細胞の治療抵抗性の分子基盤の一つである細胞死抵抗性に焦点を当て、多くの候補分子群を見出した。NPMの機能解析がほぼ終わりつつあり、他の分子群の機能解析にとりかかり始めている。それらの結果を踏まえて、統合ネットワーク解析等を駆使し、候補分子間の階層性を把握する予定である。
肝癌の治療抵抗性の分子機構は、細胞死抵抗性、無制限な細胞増殖能、転移浸潤能、血管新生能などの生物学的特性によって構成されており、当初の計画に沿って各々の生物学的特性の候補責任分子群を明らかにしていく。また平成27度の研究経過より、候補責任分子群は、複数の生物学的特性を担うことが明らかになった。そのために、候補分子群の機能を多方面より解析し、より効率的な治療戦略を、肝癌治療抵抗性を克服するために構築していく。
肝癌の治療抵抗性の分子基盤は多岐にわたり、単年度では研究が完遂できない。そのため当初の計画に基づき、肝癌の分子生物学的特性を同時進行で解析していく必要がある。
これまでの研究経過より、肝癌の有する生物学的特性を担う候補分子は、複数の特性に関与することが明らかになった。そのため、候補分子の機能を多面的に解析し、より効率的な機能解析を行う予定である。
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