研究課題
NASHは線維化の進行により肝硬変に至る重要な疾患である。しかし、中心静脈領域(zone3)優位の好中球を中心とした炎症細胞浸潤とzone3優位の肝細胞周囲線維化という、他の肝炎とは異なるNASHに特徴的な病態について詳細な機序は明らかにされておらず、線維化の進行を遅らせる予防法や有効な治療法が確立していないのが現状である。遊離脂肪酸は全身臓器での慢性炎症の誘因、膵島細胞でのβ細胞障害による糖尿病の悪化1)、動脈壁のアポトーシスに伴う動脈硬化の進展2)などを引き起こす。それらは“lipotoxicity”と称され3)注目を浴びている。肝臓でのlipotoxicityは、in vitroにおいて飽和脂肪酸が肝細胞のアポトーシスを起こすとの報告があるが4)、技術的な難しさから、in vivoでの遊離脂肪酸投与と肝障害に関する報告はない。我々は、経内頸静脈的飽和脂肪酸持続投与の系を用いてin vivoでの遊離脂肪酸投与が肝臓に与える影響を解析した。その結果、遊離脂肪酸投与早期から肝星細胞の活性化を認め、さらに長期投与により肝線維化を認めた。この事実から、血中遊離脂肪酸と肝線維化には密接な関連が存在すると考えられた。また、遊離脂肪酸の投与は肝臓局所でのcxcl2、ccl2の発現を上昇させ、好中球やマクロファージを中心とした炎症細胞浸潤を誘導した。特に遊離脂肪酸単独によって、ヒトNASH病態に特徴的な好中球浸潤を示したことは非常に新規性が高いと考える。これらの炎症細胞浸潤にTLR4を介した自然免疫応答シグナルが必須であることを、TLR4KOマウスを用いて証明した。
3: やや遅れている
星細胞の活性化機序の解明に培養細胞での検討を行ているが、この見当で種々の困難があり進展を得てない。
遊離脂肪酸がTLR4を介してシグナルを伝えるには、Fetuin-Aと呼ばれる内因性のリガンドが必須であることが知られている。Feutin-Aは肝臓の糖タンパク質であり、2型糖尿病患者、肥満患者、肥満マウスで上昇が確認されており、FetAの増加はインスリン抵抗性増悪と炎症増悪を起こすことが報告されている7)。遊離脂肪酸が肝線維化を誘導するのに、TLR4を介したシグナルが必須であることは既に証明しているため、このFetAは治療標的となる可能性が極めて高い。この仮説を証明するため、in vitro、in vivoの系で、FetAを介したシグナルの阻害により遊離脂肪酸が誘導する肝線維化を改善できるかを検証する。まず、ex vivo肝星細胞を用いたin vitroの系において、種々のcloneのanti-FetA抗体を用いて、ブロッキング効果を検証する。その結果、in vitroで肝星細胞活性化の阻害を認めた抗体を用いて、in vivoでの肝線維化阻害効果を検証する。
旅費の支払いが見積もりより10万円以上低減したため、繰越額が生じた。
次年度の研究費として計上して使用予定今後はこれまで得られた結果をもとに各種ノックアウトマウスおよび遺伝子編集技術などを用いて結果の確認作業を精力的に進めていきたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
巻: 26 ページ: e115403
10.1371/journal.pone.0115403