研究課題/領域番号 |
25293176
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
田中 靖人 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90336694)
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研究分担者 |
松永 民秀 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (40209581)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 肝炎ウイルス / HBV / iPS細胞 / キメラマウス |
研究実績の概要 |
近年、ヒト多能性幹細胞から肝細胞への分化を促進するいくつかの低分子化合物は大量かつ安定的に、高純度で合成することが可能であり、組換えタンパク質やウイルスベクター、共培養用細胞を用いる方法よりもリスクやコストが低く、ロット間差が少ないため、ヒトiPS細胞から肝細胞への分化に用いる分化誘導因子として有益であると考えられる。本研究では、ヒトiPS細胞の肝細胞への分化において、サイトカイン類に加えバルプロ酸を添加することにより分化効率及び成熟化が促進することが明らかとなった。また、肝細胞分化及び成熟化の促進作用は、バルプロ酸のヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によるものであることが示唆された。さらに、トランスパレント社が開発した立体培養可能なプレート(Cell-able®)及び培地を用いて三次元培養を行い、成熟化に対する影響について検討した結果、三次元培養法によって肝細胞はスフェロイドを形成し、その遺伝子発現は、二次元培養法と比較し高かった。また、三次元スフェロイド外膜はNTCPやOATP1B1を高発現し、肝臓血管側極性を示した。Cell-ableにおいては3T3細胞と共培養を行うことで、細胞の接着率の向上するため、肝実質細胞と非実質細胞との共培養も可能であり、生体に近い肝臓構造を形成し、肝機能が向上することが期待される。 最終目標である免疫細胞を保持するヒト肝細胞キメラマウスの作製とB型慢性肝炎モデルの構築に関しては、HLA既知のiPS細胞から成熟肝細胞に分化させ、TK-NOGマウスへの移植実験を行う。施設内における動物実験の許可及び必要な実験環境も整ったので、最終年度は複数のストラテジーで研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)肝細胞への分化:近年、ヒト多能性幹細胞から肝細胞への分化を促進するいくつかの低分子化合物は大量かつ安定的に、高純度で合成することが可能であり、組換えタンパク質やウイルスベクター、共培養用細胞を用いる方法よりもリスクやコストが低く、ロット間差が少ないため、ヒトiPS細胞から肝細胞への分化に用いる分化誘導因子として有益であると考えられる。本研究では、ヒトiPS細胞の肝細胞への分化において、サイトカイン類に加えバルプロ酸を添加することにより分化効率及び成熟化が促進することが明らかとなった。また、肝細胞分化及び成熟化の促進作用は、バルプロ酸のヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によるものであることが示唆された。 2)三次元培養による成熟化:三次元培養法によるヒト肝臓を模したモデル形成を行い、ヒト生体でのin vitro微小肝臓モデルの構築を目的とした。トランスパレント社が開発した立体培養可能なプレート(Cell-able®)及び培地を用いて三次元培養を行い、成熟化に対する影響について検討した結果、三次元培養法によって肝細胞はスフェロイドを形成し、その遺伝子発現は、二次元培養法と比較し高かった。また、三次元スフェロイド外膜はNTCPやOATP1B1を高発現し、肝臓血管側極性を示した。 3)免疫細胞を保持するヒト肝細胞キメラマウスを作製:第一段階として、HLA既知のiPS細胞から成熟肝細胞に分化させ、TK-NOGマウスへの移植実験を行う施設内の動物実験の許可及び実験環境は整った。これまでの検討で、iPS細胞由来の成熟肝細胞をそのままuPA/SCIDマウスに移植すると癌化することがわかっており、分化方法を工夫した上で、異所性に移植して検討する。
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今後の研究の推進方策 |
1)成熟肝細胞特異的に発現する転写制御因子及びmiRNAの探索とその制御:ヒト胎児肝細胞(未熟肝細胞)と成人肝細胞(成熟肝細胞)に発現する転写制御因子及びマイクロRNA(miRNA)をマイクロアレイにて網羅的に解析し、成熟に関与する転写制御因子及び miRNA候補をピックアップする。発現に関与する液性因子や低分子化合物、miRNA、siRNAを用いて成熟肝細胞と類似した発現プロファイルとなるよう制御することで、成熟化を試みる。 2)免疫細胞を保持するヒト肝細胞キメラマウスを作製とB型慢性肝炎モデルの構築:最終年度は成果を上げるために複数の研究計画で進める。① HBVを感染させたiPS肝細胞キメラマウスに、iPS細胞を樹立した同一個体のPBMCを養子移入する。② T細胞応答の影響を見るために、HLA-A2もしくはHLA-A24陽性のB型急性肝炎患者、もしくは既感染の方からHBV特異的T細胞をin vitroで増殖させ、HLA-A2もしくはHLA-A24を持つiPS細胞由来の(成熟)肝細胞キメラマウスに養子移入する。③ CD34陽性ヒト造血幹細胞をHLA-A2を発現する NOGマウスに400radのX線照射後に移植し、そこでHLA-A2拘束性のヒトT細胞を誘導する。このマウスをHBVに対して免疫し、HBV特異的T細胞を誘導し、そのT細胞をHLA-A2を発現するiPS細胞由来(成熟)肝細胞キメラマウスに養子移入することで、免疫を保持したB型慢性肝炎マウスモデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度は高額な試薬、マウスなどの購入が無く研究実施が可能であったことと、解析データの入力作業量も少ないことで人件費も当初の予定より安価となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度が最終年度となるため、これまでの成果に関して最終的に必要となる解析に加え、キメラマウス作製、B型慢性肝炎モデル構築に対し高額な解析費や試薬代が必要となるためその費用に使用する。
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