研究課題/領域番号 |
25293179
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
稲垣 豊 東海大学, 医学部, 教授 (80193548)
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研究分担者 |
紙谷 聡英 東海大学, 医学部, 准教授 (30321904)
住吉 秀明 東海大学, 医学部, 講師 (60343357)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝線維化 / 再生 / 発がん |
研究実績の概要 |
硬変肝では生理的な再生が損なわれる一方で、肝細胞癌が好発する。肝線維化の進展を抑制しつつ傷害肝の再生を促すという肝硬変に対する基本治療戦略にもかかわらず、線維肝の再生を司る幹前駆細胞の分化制御機構の研究は大きく立ち遅れている。また、がん幹細胞の分化の観点から肝線維化と発癌との関連を解明しようとする研究も皆無である。 本研究では、線維肝における幹前駆細胞の動員と分化、さらに発癌を制御する細胞間の相互作用(cell-cell contact)を司る機序として、Notch/Jagged-1シグナルに着目した。Jagged-1遺伝子欠失マウスを用いて、肝の線維化と再生、発癌の病態連繋を包括的に解析し、その制御機構の解明を通じて線維肝の再生促進と発癌抑止を図ることを目的とした。 昨年度までの研究により、肝星細胞の初代培養に伴う活性化によりJagged-1発現が増加すること、Jagged-1遺伝子欠失マウスと対照の野生型マウスに四塩化炭素の反復投与を行って作製した線維肝の部分切除を行うと、Jagged-1遺伝子欠失マウスにおいて生存率の著しい低下が認められることが明らかになった。すなわち、線維化の進行に伴って活性化星細胞での発現が増加したJagged-1が、肝細胞のNotch受容体を介して線維肝の再生を促進する可能性が示された。 平成27年度は、Jagged-1遺伝子欠失マウスと対照の野生型マウスにDiethylnitrosamineの腹腔内投与を行って肝発癌の頻度を比較検討した。その結果、野生型マウスでは約3分の2の雄マウスにのみ肝癌が発生し、雌マウスでは肝癌は認められなかったのに対して、Jagged-1遺伝子欠失マウスでは雄の全匹、また雌でも約3分の1に発癌が認められた。したがって、Notch/Jagged-1シグナルは肝発癌に対しては抑制的にはたらくことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Jagged-1遺伝子欠失マウスでは、野生型マウスでは雄マウスにしか発生しないDiethylnitrosamine誘導性の肝癌が約3分の1の雌マウスでも認められるなど、前年度までに明らかにした線維肝の再生に及ぼす影響に加えて、肝発がんに対するJagged-1/Notchシグナルの作用が明らかにされるなど、線維肝における再生と発がんの病態連携が解明されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえて、本研究の最終年度となる平成28年度はNotch/Jagged-1シグナルを介した成熟肝細胞から前駆細胞への脱分化機構を明らかにする。すなわち、四塩化炭素の反復投与により作製した線維肝に対する部分切除前後での免疫組織染色、また初代肝細胞と星細胞との共培養系を用いて、活性化星細胞が発現するJagged-1が成熟肝細胞の脱分化にどのような影響を及ぼすか、またこのようにして誘導された肝前駆細胞が線維肝の再生や発癌にどのように関わるかを、Jagged-1遺伝子欠失マウスと対照の野生型マウスとの比較により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度から今年度にかけては、研究代表者の所属施設で既に繁殖済みの遺伝子改変マウスを用いて肝発癌実験を行ったため、当初予想よりもマウスの使用(購入)数が限られた。得られた肝癌組織の解析においても、遺伝子発現解析や組織染色実験は次年度に持ち越され、これらの理由により当初計上した遺伝子改変マウスの飼育管理費用(学内施設)や試薬類等の研究経費を全額使用するには至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
本実験の最終年度となる平成28年度には、肝癌組織を用いての解析が最終段階を迎える。また、新たにJagged-1欠損マウスにおける線維肝再生不全の機序解明も予定されており、多くの試薬類の購入が予定されている。
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