研究課題
平成26年度は、leukemia inhibitory factor(LIF)による心筋幹/前駆細胞を介した再生心筋の系譜と動態をBrdUとEdUの二重標識により定量評価した。妊娠母体を介して胎生期のα-MHCCreLacZマウスにBrdUを投与し、分裂活性の低い心臓組織幹細胞をlabel retaining-cellとして標識し、さらに、当該マウスが成体になった時点で心筋梗塞を作成してLIFを投与後、EdUによる9日間の標識を行い、BrdUおよびEdU陽性の新生心筋について梗塞4週間後に解析した。その結果、BrdU、EdU単独陽性または両者陽性の新生心筋細胞がLIF投与群で増加していた。しかし、このような新生心筋細胞のほとんどは単独で存在し、コロニーを形成する場合は希であった。したがって、LIFは内在性心筋幹/前駆細胞を細胞周期に導入し、非対称性分裂を促すことにより心筋細胞再生を促進していることが示唆された。次に、心筋前駆細胞に対するLIFのDNA傷害の修復と細胞増殖に対する効果についてSca1陽性心筋前駆細胞株を用いてin vitroで検討した。その結果、H2O2添加1時間後にγ-H2AXおよびリン酸化ATM陽性心筋前駆細胞は増加するが、LIF添加による抑制効果は認めなかった。また、H2O2除去後のγ-H2AXおよびリン酸化ATM陽性細胞の減少(DNA障害の修復)に関してもLIF添加による減少促進効果は明らかではなかった。また、1%胎仔牛血清濃度下で細胞周期を停止した心筋前駆細胞に対して、1%および10%血清刺激下でのLIF添加によるBrdU取り込み比率を比較したが、有意な差は認めなかった。多色標識可能なタモキシフェン誘導型rainbowマウスの心筋梗塞モデルを作成し、心筋梗塞4週後に同一色調の心筋細胞コロニーを構成する心筋細胞数の頻度分布をshamと検討したところ有意な差は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度はLIFが内在性心筋幹/前駆細胞を細胞周期に導入し、非対称性分裂を促すことにより、心筋細胞再生を促進していることが示唆する所見を得られた。このことは、内在性心筋幹/前駆細胞の動態解析において重要な知見である。心筋細胞をタモキシフェン誘導下で多色蛍光標識できるrainbowマウスを用いて心筋梗塞モデルを作成し、shamマウスと心筋細胞分裂活性について比較検討した。
これまでの検討で、LIFの心筋前駆細胞に対する増殖とDNA傷害と修復に関しては、in vitroとin vivoの結果に解離が認められた。このことは、LIFが心筋間質細胞を介したパラクライン効果により作用する可能性を示唆するため、心筋線維芽細胞または心筋間葉系細胞との共培養系を用いてSca1陽性心筋前駆細胞または心臓SP細胞について検討する。PuraMatrixTMを用いた心筋前駆細胞移植による心筋再生効果について、α-MHCCreLacZマウス心筋梗塞モデルを用いて、梗塞直後~2週、および3~4週にBrdUとEdUをそれぞれ投与し、新生心筋への取り込み率を検討し、内在性心筋幹/前駆細胞が心筋細胞に分化する過程において心筋前駆細胞移植が細胞分裂促進効果を有するか検討する。また、移植後3日、1週、2週、4週の心筋について、レーザーマイクロダイセクションと質量分析により同定された移植群に特異的な蛋白発現について解析する。多色標識可能なタモキシフェン誘導型rainbowマウスについては、同一色調の心筋細胞コロニーとBrdU標識を併用して分裂心筋検出感度を高めて、細胞移植心筋梗塞モデルマウスを用いて検討する。
PuraMatrixTMを用いた心筋前駆細胞移植については、赤色蛍光色素遺伝子を導入した細胞株の移植後の生着が悪かったため、細胞移植モデルマウスの作成に遅れを生じた。多色標識可能なタモキシフェン誘導型rainbowマウスについては、多色蛍光を有する組織と抗BrdU抗体との二重染色が困難であった。
赤色蛍光色素遺伝子を導入した心筋前駆細胞株については、新たな細胞株と三次元培養法に修正を加えたことにより、移植後の生着が改善し、PuraMatrixTMを用いた心筋前駆細胞移植モデルマウスの新生心筋の系譜と増殖動態の解析と蛋白発現の定量解析については今年度行う。多色標識可能なタモキシフェン誘導型rainbowマウスについては、多色蛍光を有する組織と抗BrdU抗体との二重染色は、連続切片を用いることにより解決したため、細胞移植心筋梗塞モデルマウスを用いて検討する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
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