研究課題
基盤研究(B)
本研究では、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(PP1M)のスモールサブユニット(M21)を高発現するトランスジェニックマウス(M21-TGM)は肥大型心筋症様の病態を呈することから、PP1Mのラージサブユニット(MYPT1)リン酸化パターンを検討した。生化学的な解析から、M21はヒトMYPT1のThr696のリン酸化を亢進するが、Thr853のリン酸化は変化しないこと、このリン酸化にはROCK2が関わることを明らかにした。一方、M21-TGMでもマウスMYPT1のThr696のリン酸化亢進を認めたが、Thr850のリン酸化は変化していなかった。また、ミオシン軽鎖(MLC2)のリン酸化には変化がなかったことから、M21-TGMにおける心肥大はMLC2のリン酸化制御を介するものではないと考えられた。さらに、網羅的遺伝子解析からM21-TGMではMYPT1およびROCK2の発現亢進が観察されたことから、MYPT1のリン酸化制御が心肥大の新たなカスケードであると考えられた。これとは別に、既知の原因遺伝子に変異がないHCM多発1家系を対象としたエクソーム解析から、罹患者2名に共通で非罹患者に存在しない病因候補変異を98種同定した。一方で、同家系についてもマイクロサテライトを用いた連鎖解析で候補原因遺伝子座(LOD>1.0)を6か所同定した。これらの重なり領域内の遺伝子について解析し、ある遺伝子(遺伝子A)に家系内で疾患と連鎖する変異を同定した。さらに他の肥大型心筋症患者集団を解析し、別の疾患関連変異を同定した。これらとは別に、候補遺伝子アプローチを行い、拡張型心筋症の病因となるFHOD3変異を同定し、機能解析によってこのFHOD3変異はアクチン動態に依存したSRF活性亢進を抑制することを明らかにした。また、ラミンA/C変異による拡張型心筋症の心不全病態発現に性差があることについて検討し、これがアンドロゲン受容体の発現亢進とそれに引き続くFHL2およびSRFの核内移行亢進によることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまでに申請者らが行って来た遺伝性心筋症の病因となある遺伝子異常の同定と、それによる病態形成機序解明に立脚して、心不全病態の治療・予防戦略を策定することを目的としている。ことに、(1)Ca感受性亢進による心筋リモデリング機序、(2)サルコメア整合性異常と心筋細胞死、(3)心筋ストレス反応カスケードに着目した研究を進めるとともに、(4)新規の心筋症原因遺伝子の解明が焦点である。初年度であるH25年度は、(1)、(3)および(4)を中心に研究を進めるとともに、(2)に関連する予備的な検討を行った。ほぼ当初の計画どおりに研究が進んでいる。
網羅的エクソーム解析によって肥大型心筋症多発家系に見出された新規の原因遺伝子について、その変異の機能解析を進める。また、候補遺伝子アプローチを進めることで、新規の心筋症原因遺伝子を同定する。さらに、肥大型心筋症様病態を呈するM21-TGMについて、心筋における遺伝子発現パターンの変化、電顕による詳細な構造解析を解析することで心肥大メカニズムを解明するとともに、ROCK2阻害剤投与による病態改善効果を検討する。
H26.3.31までに物品等が納入され、請求書が来ているものの、事務的に支払が完了していなかったため上記理由に記載の通り、請求された購入物品費を支払う
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