研究実績の概要 |
平成26年度に作成した骨格筋由来分泌因子候補であるFactor-1の骨格筋特異的ノックアウトマウスを使用し、Factor-1の生体における役割を解析した。下肢動脈結紮による下肢虚血モデルを作成したところ、ノックアウトマウスはコントロールマウスと比較して血流改善が遅延した。しかしながらその減弱効果は薬理学的に全身のFactor-1を阻害した場合の半分程度であったことから、骨格筋以外のFactor-1の血流改善への寄与が示唆された。我々はマクロファージ由来のFactor-1の寄与を考えており、骨格筋肥大マウス(骨格筋特異的Akt1過剰発現マウス)のマクロファージを除去する実験系にて下肢血流改善効果を評価している。またFactor-1のバイオマーカーとしての可能性を検討するため心血管リスクを有する患者での血中濃度測定を行い、サルコペニアの指標との相関についても検討したが、有意な相関関係は認めなかった。本研究結果は平成28年度の米国心臓病学会で発表を行う予定である。 平成26年度に同定した残る8つの候補遺伝子のうち2つ(Factor-2, -3)は培養骨格筋細胞のみならず、骨格筋特異的Akt1過剰発現マウスの血中濃度も上昇していることが確認された。Factor-2に関しては組織特異的ノックアウトマウスを作成するための準備を進めている。Factor-3に関してはELISAが市販されていたため、入院患者における血中濃度測定を行った。Factor-3の血中濃度は冠動脈疾患患者で有意に高値であり、動脈硬化のパラメーターとも有意な相関を認めた。これらの結果から、骨格筋由来の分泌因子であるFactor-3が動脈硬化病変を制御している可能性が示唆された。今後、Factor-3に関しても組織特異的ノックアウトマウスを作成し、動脈硬化モデルマウスと交配することで、Factor-3による動脈硬化制御の分子機序を解明する方針である。
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