研究課題
難治性腫瘍である悪性胸膜中皮腫は、発症例の持続的な増加にもかかわらず、分子診断・治療法の開発が立ち遅れている。我々は、最先端のプロテオミクス技術を駆使した探索的研究により、これまでに中皮腫組織で過剰発現する2つの極めて有望な診断・治療への応用が期待される分子の同定に成功している。本研究課題では、これらに関連分子群を加えて包括的な機能解析を進めることにより、そのシグナル伝達経路の解明を目指すとともに、分子診断法としての有用性の検証を進め、革新的診断・治療法の開発へと道を拓くことを目的とする。前年度までに進めてきた悪性胸膜中皮腫を対象とする分子診断キットの開発研究に関して、本年度は、臨床への実用化を念頭においた開発を進めた。具体的には解析時間の短縮を目指したプロトコールの変更と、診断精度の向上を目指したELISAで用いる検出用標識抗体の新規開発である。プロトコールの変更は反応時間や発色時間の短縮が主たる内容であり、これにより解析時間を3分の2とすることが可能となり、さらに悪性胸膜中皮腫の診断精度は80%以上を達成できたことから、従来法に代わる有効な解析法であることが期待された。新たな標識抗体の作成に関しては、候補抗体を得ることができたため、次年度は、これらの抗体を用いた解析を進め、開発中の中皮腫分子診断法のさらなる実用性の向上を進める計画である。並行して進める悪性胸膜中皮腫に対する治療標的候補の機能解析に関しては、前年度までに、標的分子と共作用するキナーゼを同定していたが、その制御機構に関する新たな知見を得ることに成功している。この知見に基づくことにより、治療薬候補となる低分子化合物のスクリーニング系を確立することが可能となると期待され、次年度は、その検討を進めることを計画している。
2: おおむね順調に進展している
実臨床に応用が可能と期待される診断キットの作成に成功するとともに、治療標的と期待される分子の機能に関して新たな知見を得ることが出来た。
悪性胸膜中皮腫に対する新たな診断法の確立に関しては、実用化を念頭に置いた臨床試験を展開することを計画する。治療標的候補分子に関しては、新たに得た知見に基づき、治療薬開発のシーズとなる低分子化合物スクリーニング系の構築を計画する。
診断標的分子に対する、より反応性の高い抗体が得られたことから、新たな診断キットの開発研究を進める必要があるため。治療標的分子の機能に関する新たな知見が得られたことから、前年度までに得られていた知見に基づいたシグナル伝達系の阻害因子スクリーニング系に代わり、新たなシステムを構築する必要があるため。上述の如くに当初予定した計画を平成27年度に行うため。
診断標的分子に関する研究では、臨床への応用を念頭においた臨床性能試験実施準備を進めるとともに、当該分子の治療標的としての有用性に関しても、検討を進める計画である。治療標的分子に関する研究では、分子間結合を標的とする化合物のスクリーニング系の構築を進め、その有用性を検討していく計画である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Carcinogenesis
巻: 35 ページ: 2224-2231
10.1093/carcin/bgu127