研究課題/領域番号 |
25293197
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
脇野 修 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50265823)
|
研究分担者 |
伊藤 裕 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (40252457)
徳山 博文 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50276250)
長谷川 一宏 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30424162)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 糖尿病性腎症 / 肥満 / アルブミン尿 / 近位尿細管 / インスリン受容体 / Sirtuin / Rhoキナーゼ |
研究概要 |
近位尿細管特異的Sirt1欠損マウス、インスリン受容体(IR)欠損マウス、dnRhoA過剰発現マウス用いた糖尿病性腎症、肥満腎症発症のメカニズムの解明を開始した。まず近位尿細管特異的Sirt1-CKOとdb/dbマウスとの交配により肥満型糖尿病による尿蛋白排泄、HFD負荷による尿蛋白排泄の増悪の有無を検証した。その結果肥満型の糖尿病においてもアルブミン尿の発症は抑制され、podocyteの足突起のeffacementは正常化していた。つぎにこの「尿細管-podocyte細胞連関」仲介物質としてのNMNの腎内動態を光学的手法を用いて検証した。ATP・GTP等のヌクレオチドの体内動態観察に使用される蛍光物質Mant-NMN合成を腎動脈からの投与を行いその腎臓内での検出部位の時間経過を追った。その結果より近位尿細管からpodocyteへのNMNの移行を証明された。Rho/Rhoキナーゼ経路の尿細管における意義の検討も行った。この経路の近尿細管における意義を明らかにする目的で申請者はすでに近尿細管特異的プロモーターであるNa/Pi Cotransporterのプロモーターの下流にヒトdominant-negative RhoA遺伝子を接続した遺伝子をマウスに導入した近位尿細管特異的dnRhoA過剰発現マウスを作成している。このマウスは高脂肪食により引き起こされる腎組織のRhoキナーゼの活性化が抑制されるか、糸球体病変が近位尿細管の遺伝子改変で改善するか否かを検証した結果、肥満により生じた尿細管におけるRhoキナーゼの活性が近位尿細管特異的dnRhoA過剰発現マウスでは抑制されていた。そのマウスは腎臓のサイズ、生化学データにおける糖代謝の異常に関しては改善は認められず、尿蛋白、アルブミン尿の正常化は認められなかったものの、尿細管障害のマーカーが正常化していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近尿細管細胞におけるNMNの分泌、吸収についてレセプターを介す機序かどうかを明らかにする予定であり、具体的にはMant-NMNを用い、近位尿細管細胞からのexocytosis等の放出機序やendocytosis、P2X・P2Yヌクレオチド受容体を介する細胞内取り込みなどpodocyteへの取り込み機序の詳細を明らかにする予定であったが、in vivoの解析が主に行ってきたため、まだ結果は明らかとなっていない。また尿細管インスリンレセプターのCKD発症進展における意義についての検討が不十分である。すなわち我々は既に近位尿細管特異的Creマウス(NDRG-Creマウス、京都大学柳田素子教授より供与)とIR flox/flox(insulin receptor、Harvard大学Ronald Kahn教授より供与)との交配により 近位尿細管特異的IR欠損マウスの作成に成功している。このマウスを用い、腎臓における近位尿細管のインスリン抵抗性の意義について明らかにする予定である。すなわち作成されている近位尿細管特異的IR欠損CKOにおいて高脂肪食、db/dbマウスとの交配を行い肥満、インスリン抵抗性に伴う腎障害マウスモデルにおいてその腎症進行に対する影響、尿蛋白排泄に対する影響、podocyte障害の有無を明らかとする予定であったが、マウスの交配に問題があり、NDRG-CreマウスとIR flox/floxを有するマウスの確保が困難であることが判明している。現在マウスを新たなものとし交配のやり直しを行っている。近位尿細管特異的dnRhoA過剰発現マウスを用いた解析については近尿細管細胞、podocytesにおける遺伝子発現をLaser microdissection法で検討し、変化する遺伝子群をmicroarrayで探索する予定であるがまだ実施していない。
|
今後の研究の推進方策 |
近尿細管細胞におけるインスリンシグナル、Rho/Rhoキナーゼシグナルの欠損もしくは過剰がpodocyteに及ぼす影響を検討する。具体的にはIRの過剰発現、siRNAによるノックダウンもしくはインスリン過剰刺激後のHK-2細胞の培養上清をpodocyteに添加しpodocyteの形質の変化、分子発現の変化をmicroarrayを用いて検討する。Rho/Rhoキナーゼ経路についても同様の検討をdominant negative RhoAおよびconstitutive active RhoAのvectorを用いて検討する。conditioned mediumの検討に関してはメタボローム解析を応用する。さらに糖尿病性腎症患者の尿中claudin-1およびNMNの測定を糖尿病性腎症の重症度の診断マーカーとして臨床応用を開始させたい。倫理審査委員会における承認を受けており、患者への説明及び文書による同意を得て、糖尿病性腎症の腎生検検体、尿検体、血液検体の収集を開始する。Sirt1、Claudin-1抗体によるヒト検体における免疫染色のプロトコールを確立しており、染色陽性部位をImage-Pro Plus 3.0で定量し、臨床学的パラメータ(eGFR,S-Cr,HbA1c,蛋白尿等)との相関を統計学的に解析する。尿細管Sirt1低下とpodocyteClaudin-1上昇、podocyteClaudin-1上昇と一日蛋白尿量が相関を検証する。同様の検討をIR、Rho/Rhoキナーゼ経路に関連する代謝産物に関しても検討する。
|