研究課題/領域番号 |
25293203
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
神田 隆 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40204797)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 血液神経関門 / ラミニン / ペリサイト / 内皮細胞 / 非細胞バリアー |
研究実績の概要 |
ヒト血液神経関門(blood-nerve barrier, BNB)を形成する微小血管の基底膜分子の全容解明と、血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)形成基底膜との相違点を明らかにする目的で、ヒト生検末梢神経材料及び剖検脳・末梢神経材料を用いた免疫組織化学を平成25年度の成果をさらに発展させる形で行った。ヒト末梢神経組織に対する免疫組織化学は、研究代表者が確立した手技に準じて行った。結果:同一剖検個体から得られた脳・末梢神経微小血管の比較から以下の結論が得られた。1.脳微小血管基底膜の主成分はフィブロネクチン、コラーゲンtype IVおよびラミニンα4、ラミニンα5であり、この4つの分子に対するIgG抗体によりほぼすべての微小血管が均一に染色された。2.末梢神経微小血管基底膜の主成分はフィブロネクチン、コラーゲンtype IVのほかラミニンα5であり、ラミニンα4はほとんど検出されなかった。ラミニンβ1、β2、γ1も同等に検出された。この分子構成は複数の疾患の末梢神経生検標本でも確認でき、ヒト末梢神経微小血管構成基底膜のラミニンアイソフォームは、ラミニン-511(α5β1γ1)とラミニン-521(α5β2γ1)が主体となっているものと判断された。考察:末梢神経微小血管構成基底膜成分が中枢神経のそれと分子構成が異なることがはじめて証明された。T細胞の脳内浸潤にあたってラミニンα4を介した基底膜への接着・浸潤過程が重要であることが示されているが、ギラン・バレー症候群やCIDPをはじめとする末梢神経系の炎症性疾患ではT細胞浸潤が別の経路を経ていることが示唆される結果であり、また、glia limitansを持たないBNBでのT細胞浸潤阻止に、内皮細胞/ペリサイトを囲む基底膜が寄与していることが想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終ゴールは、ヒトBNBを構成する内皮細胞、ペリサイトに基底膜を加えたヒトBNBの三次元in vitroモデルを世界に先駆けて確立することにある。ヒトBNB由来内皮細胞とペリサイトについては研究代表者の教室で樹立したものが既に存在しており、非細胞部分(基底膜)が完成すれば当初の目標は達成可能となる。本年度の研究で、T細胞浸潤に不可欠な基底膜成分であるラミニンα4の発現がBNB構成基底膜できわめて低いことがはじめて明らかになり、BNB三次元モデルの臨床的意味合いがさらに強化されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.フィブロネクチン、コラーゲンtype IV、ラミニンα5の3成分からなる基底膜マトリックスを作成し、同マトリックスをculture insert(孔径3.0ミクロン)に塗布したBNB基底膜モデルを作成する。このculture insertの上面にヒトBNB由来内皮細胞株、下面にヒトBNB由来ペリサイトをconfluentに播種し、ヒトin vitro BNBモデルとする。このモデルの上面にヒトリンパ球を投与し、下面に抜けてくるリンパ球数をカウントするシステムをまず確立する。 2.次に基底膜マトリックス成分を変更したものを作成する。具体的にはBBBモデル(フィブロネクチン、コラーゲンtype IV、ラミニンα4、ラミニンα5)、ラミニンα5欠損モデル(フィブロネクチン、コラーゲンtype IV)の2つで、この2種類を介したリンパ球数の比較を行う。 3.3種類の基底膜マトリックスのうち最もリンパ球浸潤の良好なものをピックアップし、それぞれの基底膜分子構成比率を変化させたものを作成して最もリンパ球浸潤を促進する配合比を決定する。並行して、最もリンパ球浸潤を阻止する配合比を確定する。 4.BNB三次元モデル上に培養したヒトBNB由来内皮細胞を回収し、第2のプロジェクトであるヒトBNB由来内皮細胞上のinflux, effluxトランスポーターの網羅的解析を行う。この研究は、連携研究者(寺崎)の協力を得て、Multiple Reaction Monitoring Modelの質量分析装置を用いることで同細胞の細胞膜タンパク質の高感度・網羅的な定量的解析を行うものである。
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