我々は、未知の感染症(慢性脳炎)の疾患概念の確立と病原菌の同定を試み、最新の次世代シークエンサーを用いた感染症のDNA診断システムの構築を試みた。40-70歳代の進行性認知症4例に特殊な慢性脳脊髄炎を認め、病理学的にこれまで経験のないGrocott染色陽性の病原体を確認した。その病原体は、2-7ミクロンの細胞壁の無い円形であり、これまで病原性が確認されているどの菌とも類似していない。本菌を同定するために、病原体を含む領域に絞り、レーザーマイクロダイセクターを用いて組織を取り出した。その菌を含む組織からDNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて、2症例について遺伝子配列を決定した。その30万-700万リードのDNA配列から、ヒトDNAを除去し、残りの配列について、BLASTNによるホモロジー検索を行った。その検索に際して新しい検索システムの構築が必要となり、様々な種、細菌、ウイルス、真菌、ヒト以外のほ乳類などと相動性を示し、種別にDNA断片を分類できうるシステムを構築した。DNAを種別に分類した結果をもとに検索した結果、検索した2例において全く同じ種の菌を同定し、古細菌に属するHalobacterium属であった。本菌は、これまで病原体としての登録が無く、コントロールの2検体からは同菌は検出されなかった。古細菌として、世界で初めての病原体となる。 さらに、ST合剤とコルチコステロイドの組み合わせによる治療が、有効であることを確認した。 本研究により、認知症を引き起こす新しい慢性の脳脊髄炎を見いだし、世界で初めての古細菌によるヒト疾患の存在が確認された。今後は、原因不明の慢性感染症や炎症性疾患の原因について、古細菌を念頭におくことも必要である。
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