研究課題
基盤研究(B)
原因不明の難病である自己免疫疾患に対して、根本的な治療法を確立するには、本症の原因を明らかにする他に取るべき手段はない。しかしながら、自己免疫疾患の病態は複雑多岐にわたるため、何を研究対象として、どのようにアプローチするかを見定めることが、きわめて困難であった。本研究では、その機能障害がヒトに遺伝性の自己免疫疾患をもたらす転写因子AIREを研究対象に選び、遺伝子改変マウスを駆使して自己免疫疾患の原因究明に取り組んでいる。AIREは胸腺上皮細胞に発現し、胸腺における負の選択機構にはたらく。本年度はAIRE発現細胞の免疫学的性状を明らかにする目的で、薬剤(Tamoxifen)誘導型AIRE/Creノックインマウスを樹立し、AIRE発現胸腺髄質上皮細胞(AIRE+ medullary thymic epithelial cell: AIRE+ mTEC)のvivoでの動態を解析した。すなわち、いわゆるfate mapping解析により、AIRE+ mTECのAIRE発現後の半減期を測定したところ、およそ8日であることが明らかになった。この点については、AIREにproapoptoticな活性があるとする報告が他の研究ブループによって成されているので、この仮説を検証するために、薬剤誘導型AIRE/CreノックインマウスをAIRE欠損マウスと交配し、AIRE存在下、あるいはAIRE非存在下におけるAIRE+ mTECの半減期を算定した。その結果、AIREの有無によってAIRE+ mTECの寿命が変化しないことが判明した(AIRE存在下における半減期は8.0日;AIRE非存在下における半減期は8.7日)。すなわち、AIREに明らかなproapoptotic活性は認められなかった。私どもは、AIREがmTECの分化を誘導する作用を持つと考えており、今後はAIRE欠損により、mTECのどの分化段階で成熟化が停止しているかを明らかにする必要があると考えている。
2: おおむね順調に進展している
薬剤誘導型AIRE/Creノックインマウスに加えて、当初、作製・解析を計画していた他の遺伝子改変マウスの実験もおおむね順調に進展している。
平成25年度に得られた結果を基にして、引き続き、AIRE欠損に伴う自己免疫病態のメカニズム解明を図る。また、AIREの機能にはエピジェネティックな遺伝子発現制御機構が関与していると考えられるため、エピジェネティックな手法を駆使した研究に着手する(主に西嶋・松本が担当)。さらに、AIRE/DTRノックインマウス[AIRE+ mTECがジフテリアトキシン受容体(diphtheria toxin receptor:DTR)を発現する]を樹立し、AIRE欠損とAIRE+ mTEC欠損の違いを比較し、AIRE+ mTECの自己寛容成立機構における役割を明確にする(主に毛利・松本が担当)。以上のように、本研究では、その機能障害がヒトに遺伝性の自己免疫疾患をもたらす転写因子AIREを研究対象に選び、遺伝子改変マウスを駆使して自己免疫疾患の原因究明を試みる研究を継続する。AIREは胸腺上皮細胞に発現し、胸腺における負の選択機構にはたらくことから、本研究ではAIREの機能障害が、一体どのようなメカニズムによって自己免疫疾患をもたらすかの病態解明に焦点を絞る。それによって、自己免疫疾患の原因究明を基盤として、引き続き、自己免疫疾患に対する根本的治療法の開発を目指す。
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