研究課題/領域番号 |
25293236
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
横山 詩子 横浜市立大学, 医学部, 講師 (70404994)
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研究分担者 |
市川 泰広 横浜市立大学, 医学部, 助教 (10555121)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 小児 / プロスタグランディン / 循環器・高血圧 / 生理学 |
研究概要 |
動脈硬化は川崎病罹患後や低出生体重児でその発症リスクが高いとされ、動脈硬化が成人特有の問題ではないことが明らかになってきたが、小児期における動脈硬化の前病変の進行の実態とその分子機序の解明はいまだ未開拓分野である。我々は先行研究で、冠動脈ではすでに0歳児から徐々に動脈硬化の前病変である内膜肥厚が進行し、プロスタグランディンE2 (PGE2)受容体EP4が高発現することを見出した。これらの結果を基に、本研究では小児期から進行する動脈硬化性リモデリングの分子機構をPGE2-EP4シグナルに焦点を当てて解明することを目的とする。 H25年度は、0歳から71歳までの10例の心疾患以外で亡くなった患者の冠動脈(北海道大学 西原より提供)を検討し、①すでに0歳児から動脈硬化の前病変である内膜肥厚が存在し、年齢とともに内弾性板の断裂を伴う内膜肥厚が全周性となりその厚みも増加していた。また、②内膜肥厚部位には炎症細胞(CD68陽性)の浸潤がなく冠動脈は病的変化の前段階にあること、③全年齢を通して冠動脈にはプロスタグランディンE2 受容体の中でも特にEP4が高発現することが明らかとなった。さらに、ヒト冠動脈平滑筋細胞を用いて質量分析を行い、冠動脈平滑筋はEP4刺激により動脈硬化を促進する蛋白群を分泌することを見出した。また、動脈硬化を起こしにくい他の血管では幼少時からの内膜肥厚は認められなかったことから、冠動脈での前病変変化は、血圧に対して起こる単なる加齢に伴う血管の変化ではないことが示唆された。 これらの結果より、小児期から冠動脈には動脈硬化の前病変が既に存在し、成人期での動脈硬化発症に向けてPGE2-EP4シグナルが関与していることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった、ヒト冠動脈組織での発現蛋白の検討と、ヒト冠動脈平滑筋細胞でのEP4シグナルの作用の検討を行うことができた。動脈硬化の進行を、0歳から71歳までの患者の冠動脈の組織標本を用いて検討し、小児期からの冠動脈病変の進行経過の全体像をとらえることができ、EP4シグナルの動脈硬化への関与を示唆する結果を得られたため、研究の進捗は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果より、小児期からの動脈硬化の進展においてEP4シグナルが関与する可能性が示唆されたため、H26年度以降はEP4の刺激が血管壁の様々な分子に与える作用をヒト冠動脈平滑筋細胞を用いてin vitroで検討する。EP4シグナルが冠動脈平滑筋細胞で動脈硬化病変形成に及ぼす分子メカニズムを明らかにすることができることが期待される。 具体的には、冠動脈平滑筋細胞を用いた、EP4刺激による動脈硬化関連分子の挙動の検討と、血管平滑筋特異的EP4発現マウスを用いたEP4シグナルの検討、EP4とApoEのダブル欠損マウスを用いた動脈硬化抑制効果の検討を予定している。 In vitroの実験においては、平滑筋細胞に対するEP4刺激がプロテオグリカン、プロテアーゼ、コラーゲン、弾性線維関連分子、平滑筋細胞骨格関連分子に与える影響、内皮細胞活性化に与える影響を検討する。In vivoの実験では、現在動脈平滑筋に特異的にEP4を発現するマウスの作製が終わり、実験を開始している。これらを用いて、動脈での血管内膜肥厚、細胞外基質の変化、平滑筋細胞の分化度、内皮細胞の活性化、炎症細胞の浸潤の有無、について解析する予定である。また、EP4シグナルの抑制が動脈硬化の抑制につながるかを、動脈硬化発症マウスであるApoE欠損マウスとEP4のダブル欠損マウスを用いて検討する。EP4シグナルの抑制が動脈硬化発症抑制につながる可能性がin vivoで明らかになることが期待される。
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