研究課題
動脈硬化は川崎病罹患後や低出生体重児でその発症リスクが高いとされ、動脈硬化が成人特有の問題ではないことが明らかになってきたが、小児期における動脈硬化の前病変の進行の実態とその分子機序の解明はいまだ未開拓分野である。我々は先行研究を基に、本研究では小児期から進行する動脈硬化性リモデリングの分子機構をPGE2-EP4シグナルに焦点を当てて解明することを目的とした。0歳から71歳までの10例の心疾患以外で亡くなった患者の冠動脈を検討し、①すでに0歳児から動脈硬化の前病変である内膜肥厚が存在し、年齢とともに内弾性板の断裂を伴う内膜肥厚が全周性となりその厚みも増加していた。また、②内膜肥厚部位には炎症細胞(CD68陽性)の浸潤がなく冠動脈は病的変化の前段階にあること、③全年齢を通して冠動脈にはプロスタグランディンE2 受容体の中でも特にEP4が高発現することが明らかとなった。また、ヒト冠動脈平滑筋細胞を用いて質量分析を行い、冠動脈平滑筋はEP4刺激により動脈硬化を促進する蛋白群を分泌することを見出した。また、動脈硬化を起こしにくい他の血管では幼少時からの内膜肥厚は認められなかったことから、冠動脈での前病変変化は、血圧に対して起こる単なる加齢に伴う血管の変化ではないことが示唆された。さらに、EP4シグナルの抑制が動脈硬化の抑制につながるかを、動脈硬化発症マウスであるApoE欠損マウスとEP4のダブル欠損マウスを用いて検討したところ、ApoEの単独欠損マウスに比べて、ApoEとEP4のダブル欠損マウスでは、生後8ヶ月で有意にプラークの形成が低いことが明らかとなった。さらに、プラーク部位では、フィブリン1の発現が多いことが示され、EP4シグナルの抑制が動脈硬化発症抑制につながる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であった、ヒト冠動脈組織での発現蛋白の検討と、ヒト冠動脈平滑筋細胞でのEP4シグナルの作用の検討、ApoEとEP4のダブル欠損マウスでのプラーク形成の定量を行うことができた。動脈硬化の進行を、0歳から71歳までの患者の冠動脈の組織標本を用いて検討し、小児期からの冠動脈病変の進行経過の全体像をとらえることができ、EP4シグナルの動脈硬化への関与を示唆する結果を得られたことに加え、遺伝子改変動物でも、EP4シグナルの動脈硬化促進作用を明らかにしたため、当初の研究計画を予定通り遂行することができた。
これまでの成果より、小児期からの動脈硬化の進展においてEP4シグナルが関与する可能性がin vivoでも示唆されたため、本研究成果を論文報告としてまとめる。必要に応じて血管平滑筋特異的EP4発現マウスを用いたEP4シグナルの検討を行う予定である。
遺伝子改変マウスを用いて、小児より進行する動脈硬化にEP4遺伝子が関与することを見出したが、論文作成のためにさらにEP4欠損マウスの血液の生化学的データを追加取得する必要が生じた。追加データの取得については平成28年度に持ち越したため、繰越金が生じた。
平成27年度に行う予定であったEP4欠損マウスに高脂肪食負荷を行った際の血液の生化学的データを採取する。平成28年度の計画に従い、EP4過大発現マウスに高脂肪食負荷を行い、大動脈のプラーク形成をオイルレッド染色を用いて定量し、組織切片を免疫組織学的に解析する予定である。
すべて 2016 2015 その他
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