研究課題
基盤研究(B)
(1)損傷皮膚からのHMGB1放出メカニズム解明研究:表皮細胞から分泌されたHMGB1が細胞表面に発現するヘパラン硫酸プロテオグリカンと結合して細胞表面にプールされ、損傷刺激により放出される生体内メカニズムの存在を想起し、以下の実験により検証した。具体的には、マウス剥離皮膚を生理食塩水に浸した後、数分以内に生理食塩水中に経時的に放出されるHMGB1とヘパラン硫酸プロテオグリカン(シンデカンあるいはグリピカン)との結合を免疫沈降/Western blottingにより検討した。その結果、マウス剥離表皮から放出されるHMGB1の継時的変化とシンデカン放出の継時的変化は一致すること、HMGB1はシンデカンと直接結合していることが明らかとなった。(2)HMGB1による骨髄間葉系幹細胞の血中動員メカニズム解明研究:HMGB1の受容体として終末糖化産物受容体(receptor for advanced glycation end products, RAGE)およびTLR4が良く知られている。しかしRAGEやTLR4ノックアウトマウスもHMGB1投与によるPDGFRα陽性間葉系幹細胞の血中増加機序が維持されていることことから、HMGB1による骨髄間葉系幹細胞の血中動員はRAGEやTLR以外の受容体を介していることが予想される。そこで、骨髄間葉系幹細胞膜蛋白をRAGEおよびTLR結合ドメイン欠失HMGB1と架橋した後に抽出し、抗HMGB1抗体で免疫沈降して得られた細胞膜蛋白をSDS-PAGEにより分画し、銀染色により検出されたHMGB1結合性膜蛋白を質量分析により解析した。その結果、RAGEおよびTLRとは異なるHMGB1受容体蛋白候補が同定された。同定された新規HMGB1受容体候補遺伝子をPDGFRα陽性細胞特異的にノックアウトするためのマウス作成した。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究計画として、1)皮膚からのHMGB1放出メカニズム解明、2)HMGB1による骨髄内間葉系幹細胞動員メカニズム解明、を提案している。1)についてはHMGB1が表皮細胞および血管内皮細胞表面に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンであるシンデカンと結合して存在すること、皮膚損傷時にシンデカンが分解される際に、その断片と結合した状態でHMGB1が放出されることが明らかとなった。また、2)については、HMGB1の新規受容体候補遺伝子を同定し、そのノックアウトマウス作成に成功した。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
(1)末梢循環間葉系幹細胞の損傷皮膚特異的集積メカニズム解明研究:1)SDF-1α遺伝子座のプロモーター下流にGFP遺伝子を挿入したSDF-1α/GFPノックインマウスに皮膚損傷(皮弁)作成後、GFP発現変化を2光子レーザー顕微鏡およびリアルタイムPCRで経時的に評価し、皮膚損傷刺激後のSDF-1α発現動態を解析する。2)マウス剥離皮膚から放出されるHMGB1に対するSDF-1α結合の有無を、免疫沈降法により検討する。また、SDF-1α結合性HMGB1と非結合性HMGB1のそれぞれを用いて、ボイデンチャンバー法による骨髄間葉系幹細胞遊走活性を評価する。(2)皮膚集積性間葉系幹細胞による損傷皮膚再生誘導メカニズム解明究:1)PDGFRα-Cre×Flox-GFPマウスの骨髄を致死量放射線照射後のマウスに移植した後、doxcyclinを投与して骨髄内PDGFRα陽性間葉系幹細胞特異的にGFP発現発現を誘導する。次いで皮膚に潰瘍、植皮、皮膚炎など種々の皮膚障害を作成し、その再生過程におけるGFP陽性間葉系幹細胞の皮膚内細胞への分化系譜を解析する。2)PDGFRα-Cre×Flox-Dtxマウスの骨髄を致死量放射線照射後のマウスに移植した後、doxcyclinを投与して骨髄内PDGFRα陽性間葉系幹細胞をDtxにより特異的に死滅させる。次いで皮膚に潰瘍、植皮、皮膚炎など種々の皮膚障害を作成し、骨髄内PDGFRα陽性間葉系幹細胞死滅による皮膚再生障害の有無を通常骨髄移植マウスに作成した皮膚障害と比較検討し、皮膚再生過程における骨髄間葉系幹細胞の役割を解明する。(3)HMGB1の間葉系幹細胞動員活性を利用した皮膚疾患治療効果の検証:糖尿病性皮膚潰瘍モデルマウス、ブレオマイシン誘導性強皮症モデルマウス、接触性皮膚炎モデルマウス、アトピー性皮膚炎モデルマウスなどにHMGB1またはその骨髄間葉系幹細胞動員活性ドメインペプチドを血中投与し、HMGB1の皮膚疾患治療効果を検証する。
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