研究課題/領域番号 |
25293246
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大山 学 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (10255424)
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研究分担者 |
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70335256)
天谷 雅行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90212563)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 毛包再生 / ヒトiPS細胞 / 分化誘導 / 上皮―間葉系相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はヒトiPS細胞から上皮・間葉系細胞を分化誘導しそれを用いて毛包再生を実現する技術を開発することである。計画の2年目となる本年度は、昨年度難航した、胚様体形成を経ないケラチノサイトの直接分化誘導法の確立を試みるとともに、ヒトiPS細胞から誘導した間葉系幹細胞のうち特に増殖能と多分化能の優れたCD271+CD90+分画を選択的に採取し、毛乳頭の特性が維持できるか否かについて検討した。
ケラチノサイトの分化誘導に関しては、昨年度と異なりフィーダーフリーの条件下でのヒトiPS細胞の培養を確立した。これにより安定な接着培養のままレチノイン酸とBMP4を用いて分化誘導することが可能になった。約30日後にはケラチノサイトの形態を示し、ケラチン14を発現する細胞を比較的大量に得ることができるようになった。また、昨年度確立した方法でヒトiPS細胞から誘導した間葉系幹細胞からCD271+CD90+の分画をソーティングにて分離し、継代培養、分化誘導実験を行ったところ高い増殖能と間葉系の3系統に分化する優れた能力をもつことが明らかとなった。この細胞分画をレチノイン酸、次いでWNT、BMP、FGFの活性化因子を含む毛乳頭の特性を与えると予想される誘導条件下で培養した。得られた細胞は網羅的遺伝子解析の結果、ヒトiPS細胞由来の細胞とは異なる遺伝子発現プロファイルを持ち、いくつかの毛乳頭のバイオマーカーを高く発現していた。
ヒト成人ケラチノサイトと、このヒトiPS細胞由来毛乳頭類似細胞を試験的に免疫不全マウスに混合移植したところ、極めて微細ではあるもののいくつかの毛包の形態学的特徴をもつ構造が形成されていることが観察されたが、さらなる追加実験と構造の解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
決して完全とは言えないまでも毛包再生の要となる毛誘導能を示す間葉系細胞の分化誘導への筋道がついた点においては本年度の計画は比較的順調に進んだと考えられる。
特にCD271+CD90+により明確に定義されたヒトiPS細胞由来間葉系幹細胞を用いることによりヒトiPS細胞から間葉系幹細胞への分化誘導の効率に左右されることなく毛乳頭細胞の特性を与える次の誘導段階の評価ができるようになったことの意義は大きい。ヒトiPS細胞から間葉系幹細胞を経てさらに誘導するという二段階の分化誘導を経て得られた毛乳頭様細胞は、毛乳頭細胞バイオマーカーの発現を見る限り、毛乳頭細胞の一部の特性を再現しているとしか言えない状態ではあるものの、ケラチノサイトとの混合移植によりわずかながらも毛包類似ともとれる構造を再生できる可能性が示唆された。ケラチノサイトの分化誘導に関してもフィーダーフリー条件で培養したヒトiPS細胞から直接分化誘導する新しい方法を確立した。この方法は比較的多くの数のケラチノサイトを誘導できる可能性を秘め、これまで数の制限から成人由来の正常ケラチノサイトを使わざるを得なかった上記の間葉系細胞との混合移植をiPS由来の細胞のみで実現できる可能性が高い。
現在得られている知見はあくまでも試験的な実験の結果得られたものであり、さらなる検討や誘導プロトコールの改善が必要であるが、不完全ながらも、本計画のうち、最も技術的に困難と考えられるヒトiPS細胞から毛乳頭細胞様の細胞を誘導し、それを用いて毛包再構成実験を試みることができた点においておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計画で毛包再生に利用するための上皮系、間葉系の両方の細胞分画について大まかではあるがヒトiPS細胞からの分化誘導法が確立できた。しかし、当初の計画にあったiPS細胞由来ケラチノサイトに毛包バルジ幹細胞の機能を付加させること、毛乳頭細胞の特性をより良く再現した間葉系細胞をヒトiPS細胞から誘導するには分化誘導法のさらなる改善が必要である。また、現状では、再現される構造の頻度が極めて低くその解析が極めて困難であるため、毛包再構成の効率を高める技術の開発が必要である。
ケラチノサイトの分化誘導については本年度確立した方法にEGFを取り入れ、よりバルジ上皮幹細胞に近い性質の細胞の誘導を試みる予定である。特性の確認は、ケラチン15などを用い、誘導細胞の分離には申請者らが同定したヒト毛包バルジ細胞の表面マーカーであるCD200、α6インテグリンなどを用いる。誘導した細胞は、毛包幹細胞の特性維持に重要と考えられるWNTシグナルの活性因子の存在下で特性を維持しつつ培養し毛包再生実験に必要な数を確保する。間葉系細胞に関しては、現状のCD271+CD90+の細胞分画に毛乳頭細胞の特性を与える方法では惹起できる毛誘導能に限界がある。改善の方策として、分化誘導に用いる化合物のうち、細胞増殖を抑制する傾向がある現在使用中のWNTシグナル活性化因子を変更すること、SHHシグナルなど毛包形成に必要な他のアゴニストを追加すること、誘導して得た細胞を用いて細胞凝集塊(3次元構造)をとらせることなどを考えている。
免疫不全マウスに上皮・間葉系細胞を混合移植する技術は安定した。しかし、今後さらに毛包再生効率を上げるために細胞間相互作用をさらに高めるために混合した細胞を含むコラーゲンを収縮しやすいものに変更する、移植する部位を皮下以外にするなどの工夫を試みる。
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