研究課題/領域番号 |
25293272
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
嶋村 剛 北海道大学, 大学病院, 准教授 (00333617)
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研究分担者 |
西川 祐司 旭川医科大学, 医学部, 教授 (90208166)
大澤 郁朗 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (30343586)
木村 太一 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90435959)
武冨 紹信 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70363364)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 臓器保存 / 肝臓 / 脂肪肝 |
研究概要 |
本研究は肝移植における臓器不足の解消を目指し、脂肪肝グラフトの修復法を確立するために行う。具体的には、A)ラット正常肝および脂肪肝の冷保存における低温酸素化灌流(HOPE)の至適条件、B)見出された至適灌流条件におけるグラフト保護効果のメカニズム、を明らかにすることを目的とする。 上記の当初目的に対し、オリジナルの重水含有緩衝液、低温酸素化灌流(HOPE)、水素ガスを組み合わせて、脂肪肝グラフトの冷保存再灌流障害を軽減する方法論を確立することが目的である。まず、ラット正常肝の48時間冷保存、単離肝灌流による再灌流のモデルにおいて、1) 単純冷保存後のラット肝に対するHOPEの臓器修復効果を検討した。既存のUW-MP液を用いると、単純冷保存のみの場合に対する優位性は認められなかった。2) 再灌流時に水素ガスを投与すると、HOPEの有無によらず再灌流障害が軽減された。の併用効果、をラット単離肝灌流でスクリーニングし、有用性を確認した。3)得られた肝組織を用いてタンパクのリン酸化動態、酸化ストレスマーカー(8-OHdG, 4-HNE)を解析した。水素ガスは酸化ストレスを軽減するとともに、門脈循環を改善した。 マウス肝細胞株(AML12)に細胞保護効果を有するシャペロン分子を強制発現させ、低温、低酸素ストレスに対する耐性の変化を評価した。また、シャペロンによる細胞保護効果に対して、重水と水素がどのように作用するかを検討した(on going)。さらに、ラット正常肝から肝構成細胞を分離し、冷保存による障害の推移と、重水、低温酸素化、水素化による変化を主にタンパクレベルで解析した。 現在、HOPE における既存液 (UW-MP 液)に対する重水液の優位性、 HOPE 時水素ガスの併用効果、再灌流時水素ガスの併用効果、を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の当初記載の目的は、オリジナルの重水含有緩衝液、低温酸素化灌流(HOPE)、水素ガスを組み合わせて、脂肪肝グラフトの冷保存再灌流障害を軽減する方法論を確立することが目的であった。まず、1) 脂肪肝冷保存におけるUW 液に対する重水液の優位性と保存限界時間の検討、2) HOPE におけるUW-MP 液に対する重水液の優位性を明らかにする。さらに、3) HOPE 時水素ガスの併用効果、4) 再灌流時水素ガスの併用効果、5)冷保存時の加圧酸素化の併用効果、を明らかにすることであった。得られた肝組織を用いて重水、酸素化、水素化の保護メカニズムをタンパク、遺伝子レベルで解析する。また、保存終了時の肝をメタボローム解析し、代謝物の動態から作用点を見出す。さらに、正常肝、脂肪肝から肝構成細胞を分離し、冷保存による障害の推移を検討し、重水、低温酸素化、水素化によってどのように変化するかを主にタンパクレベルで解析する。 これまでの検討により、低温酸素化灌流と水素投与の方法が、正常肝の長期単純冷保存モデルを用いて、ほぼ確立された。これらの知見に基づき、脂肪肝モデルを用いた検討を行う予定である。 一方、メカニズム解析については、AML12細胞株を用いた検討とともに、ラット初代培養細胞(肝細胞、星細胞、類洞内皮細胞、クッパー細胞)の分離が可能となり、レンチウィルスを用いた遺伝子制御(up/down)を行えるようになった。今後、シャペロン分子の動態を精査する予定であり、pilot studyを終えている。
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今後の研究の推進方策 |
長時間単純冷保存したラット正常肝を修復する至適条件が比較的早い時期に確定できる見込みである。その後、脂肪肝モデルで同様の修復灌流を行い、有効性を検証し、保護メカニズムを解明する予定である。重水と水素が細胞保護を担うシャペロンとどのように相互作用するかを、肝を構成する各種の初代培養細胞、肝細胞株で検討する。 既存のUW-MP液では低温酸素化灌流(HOPE)の肝修復効果は示されなかったことから、修復灌流前の状態を改善する新規臓器保存液が必要となる可能性があり、自作の新液(重水液)の保護効果、再現性を確保する必要がある。また、新液がHOPEにも有効であること、水素ガスと併用効果があること、シャペロン分子の動態、等のpreliminary実験を早急に検討し、本実験に移行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
既存の灌流液を用いて、ラット肝の低温酸素化灌流、水素化灌流の至適条件を探索しものの、予想よりも遥かに臓器保護効果が弱かった。自作の灌流液では良好な結果が得られたので、灌流によるエネルギー状態の改善をメタボローム解析で明らかにする予定であった。しかし、対照となる既存液での灌流に難渋したため、新液の効果を比較することができなかった。それゆえ、当初予定していたメタボローム解析とウェスタンブロットを次年度に持ち越した。これらの解析に要する外注や各種抗体の費用の分が、次年度に繰り越された。 繰り越しされた額は、正常肝の長時間冷保存、冷保存後の低温酸素化灌流、低温酸素化・水素化灌流に供された肝臓のメタボローム解析に支弁予定である。H26年度は主に脂肪肝ラットの肝冷保存、冷保存後の低温酸化灌流、低温酸素化・水素化灌流の実験に支弁する予定である。
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