本研究は、iPS 細胞から管腔状構造の蠕動運動する機能的な腸管(iGut)の臓器分化誘導に成功した実績から、胎生期に膵臓が前腸から発生することに着目し、iGut から機能的な膵臓(iPanc)を臓器分化誘導することを目的に計画した。臨床応用を目指して、これまではヒトiPS細胞を用いてiGutの作製を試みてきたが、形態的には誘導できたものの、機能的なiGutの作製には至らなかった。そこで、インスリンプロモーターの下流にGFP遺伝子を組み込んだMIP-GFPトランスジェニックマウスの胎児線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、iGut及びiPancを作製する研究を計画した。現時点では、iPS細胞様コロニーの段階ではあるが、iPS細胞として樹立できる見込みである。また、MIP-GFPトランスジェニックマウス由来のES細胞を海外の研究機関から譲渡してもらったことで、ES/iPS細胞の分化誘導能を比較することも可能であると考える。また、既存のマウスiPS細胞を用いた研究では、iHeart(心筋)及びiGutは作製できたものの、iPancを分化誘導するまでには至らなかった。しかし、この実験過程で、iHeart及びiGutは培養温度によって機能的な変化が現れることを見出した。iHeartの拍動及びiGutの蠕動は、低体温症の限界温度である35℃以下で運動能が低下し、30℃では運動がほとんど停止するが、36℃以上で運動能が回復し、温度依存性に亢進することがわかった。培養皿でiPS細胞から作製したiHeart及びiGutが、生体内の心臓や腸管と同様に温度感受性を有する機能的な臓器としての再生が実現できたことを示すとともに、iPS細胞から臓器を再生するためには、環境因子として培養温度が重要な働きを果たしている可能性を示唆する重要な知見であるものと考える。
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