研究概要 |
転写因子Homeobox B9 (HOXB9)は上皮間葉転換(EMT)を誘導する因子であり、乳癌細胞においてはその浸潤能・転移能を亢進すると同時に、周囲微小環境における血管新生を誘導することを我々は示した。(Hayashida, PNAS 2010) さらに臨床検体の検討からHOXB9が乳癌患者の予後因子であること(Seki, Ann Surg Oncol 2012)、またHOXB9発現によるEMT誘導は放射線耐性を生じることを我々は示した。(Chiba, PNAS 2011) 大腸癌ではベバシズマブによる抗血管新生療法が有効であるが、組織に血管新生を強力に誘導するHOXB9の発現が、大腸癌の進展とベバシズマブによる抗腫瘍効果に与える影響についての知見は無いため、これについて研究を進めている。。 HOXB9低発現細胞株HT29, HCT116にHOXB9を導入し、高発現株SW480, WiDrにおいて発現抑制を行ったところ、VEGF・bFGF・IL-8を含む血管新生促進因子の発現がHOXB9発現と正の相関を示した。HOXB9発現誘導細胞では、MTT法によりin vitroでは細胞増殖能力の低下を認めたにも関わらず、免疫不全マウス背部へ異種移植を行ったところ、新生血管に富んだ増大速度の極めて早い腫瘍を形成し、腫瘍径・重量・微小血管密度は有意に亢進していた。これに対して、ベバシズマブの投与を行ったところHOXB9発現誘導腫瘍ではコントロールと比較して劇的な腫瘍縮小効果を認めた。(腫瘍縮小率; 93% vs. 42%, HT29, 83% vs. 27%, HCT116) 微小環境を擬似的に再現した、大腸癌細胞とHUVECs・繊維芽細胞の共培養モデルでは、HOXB9陽性大腸癌細胞からVEGFを含む血管新生促進因子が著明に分泌され、活性化された間質細胞との間にポジティブフィードバックを形成することで、大腸癌細胞増殖を促進したが、ベバシズマブはこれを遮断することで、効率的に細胞増殖抑制を行っていることを確認した。
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