研究課題/領域番号 |
25293303
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
藤井 義敬 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (40156831)
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研究分担者 |
佐々木 秀文 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (00336695)
矢野 智紀 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315883)
奥田 勝裕 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50529170)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | RET / NTRK / BRAF / EGFR / 分子標的治療 / チロシンキナーゼ |
研究実績の概要 |
肺癌は。組織学的に小細胞癌と非小細胞癌に大別され、組織型に応じて薬剤を選択し化学療法が行われてきた。しかし2004年に我々とDana Farber 癌研究所の共同研究からEGFR遺伝子変異が(Paez JG et al. Sasaki H. 12番目、Fujii Y.13番目。Science304:1497-1500.)、2007年に日本の間野博士のグループからALK転座が発見され、さらにEGFRチロシンキナーゼ阻害剤やALKチロシンキナーゼ阻害剤が認可されたことにより肺癌特に腺癌の診断、治療体系が一変した。肺腺癌に対する新たな分子標的として2012年にはRET遺伝子の転座を共同研究の中で見いだし(Lipson D et al. Nature Med 2012; 18(3):382-384. Sasaki H 24人目)、FISHプローブの開発を行ってきた。RETは甲状腺随様癌において転座が報告されていた。2013年にはさらに新しい分子標的として肺癌におけるNTRK1転座を見いだしNature Medicine誌に報告した(VaishnaviA et al. Nat Med 19(11): 1469-1472. Sasaki H 13人目)。この転座は1%程度の比較的まれな転座であり、当院での手術例の肺癌検体を用いて再解析を施行したが、追加では1例も検出されなかった。しかしNTRKの恒常的活性化を来すため、大腸癌のNTRK1転座細胞株での検証を進めた。NTRK阻害剤は有意に細胞増殖を抑制した。免疫組織学的検索では肺大細胞癌での染色陽性例を認めた。一方肺癌におけるBRAF遺伝子変異も注目されており、当科でもその検出を試みてきた。この中で頻度が多いV600E遺伝子変異について、マイクロダイセクションを用いたintra tumor heterogenityの検索を進めた。2014年末には新たにFGFR3の転座を見いだし報告した(Clin Cancer Res 20:6551-6558)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本では遺伝子診断ネットワーク(LC-SCRUM-Japan)が構築されRET転座のような1-2%の頻度の希少肺癌であっても実際にスクリーニングが可能であることが証明された意義は大きい。RET転座はこれまで希少と考えられていたALK肺癌の約5分の1の頻度である。しかしRET阻害剤が有望と思われるRET肺癌をどのようにスクリーニングして治療薬の有効性をいかなる方法で示し、臨床応用していけばよいかの考案の過程でFISHプローブの検討を試みてきた。RET遺伝子の切断点を隔てて2つのプローブをおいておき、これらが切断されていればほかの遺伝子と融合することを検出する方法(Break-apart assay)を主に用いてきた。NTRK1転座は日本人検体から検出されずFISHの検討に進めなかった。BRAF遺伝子増幅に関してはFISH法による同定を試み条件を設定、変異例で有意な増幅シグナルを得た。BRAF遺伝子変異や増幅の同定が進めば新たな分子標的としての可能性、臨床応用につながると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
NTRKについては大腸癌で転座が既に証明された細胞株での実験を進め、さらにNTRK発現増幅がみられる肺大細胞癌株の感受性実験を進めている。BRAF遺伝子増幅についてはキアゲン社のキットを用いたリアルタイムPCR法を用いたコピー数の同定も行い、FISH法との比較検討を行っていく予定である。現在BRAF遺伝子変異について、腫瘍内でのheterogeneityを認めたため、パラフィン切片を用いてレーザーマイクロダイセクションによって肺癌の様々な部位、コンポーネントの腫瘍部分からgenomic DNAを抽出し、CASR-PCRという方法を用いてそれぞれの部分のBRAF V600E遺伝子変異率計算を進めている。FISHの結果との比較検討も行う予定である。現在年間7万5千人が肺癌で死亡している。遺伝子解析技術の進歩に伴い、RET融合、BRAF遺伝子変異などの希少肺癌が近い将来いとも簡単に同定されることが目標である。今後、効果予測や副作用予測のバイオマーカーが確立され、安全でより効率的な分子標的治療が行われることが期待されている。また現在、肺癌EGFRチロシンキナーゼ阻害剤耐性変異であるT790M変異をCAST-PCR法で同定する試みを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画を一部平成27年に遅らせて、引き続きPCRのアッセイや免疫染色による検討を行うが、症例の蓄積がさらになされるため、その試薬等が引き続き必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
TaqMan PCR等の遺伝子研究用のPCRのキットや、免疫組織化学的検討に用いる抗体などの購入を行う。
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