研究課題
本年度に実施した研究成果については下記の通りである。1. FOP罹患者由来iPS細胞からのrescued iPS細胞の作製:平成25年度に作製したFOP患者とは別の患者由来iPS細胞の1クローンから、変異ACVR1/ALK2を遺伝子相同組み換えにより野生型に置換したrescued iPS細胞を、2ライン作製することに成功した。2. FOP罹患者由来iPS細胞およびrescued-iPS細胞からの、未分化間葉系細胞の作製: FOP罹患者由来iPS細胞、および遺伝子修復をした対照iPS細胞から、未分化間葉系細胞を分化誘導することに成功した。3. FOP罹患者由来iPS細胞およびrescued-iPS細胞からの、血管内皮細胞の作製: FOP罹患者由来iPS細胞、および遺伝子修復をした対照iPS細胞から、血管内皮細胞への分化誘導を試みた。しかし、従来法では誘導効率が1%程度と非常に低く、また誘導された細胞は市販の血管内皮用培地で増殖しなかった。4. FOP-iPS細胞の分化能評価:FOP罹患者由来iPS細胞、および遺伝子修復をした対照iPS細胞の骨分化能および軟骨分化能を比較したところ、FOP-iPS細胞の方がrescued FOP-iPS細胞に比べて軟骨化能が有為に亢進していることが分かった。5. 薬剤誘導型ACVR1発現細胞株の作製:ヒト骨肉腫細胞株(U2OS)に薬剤誘導型の野生型ACVR1とFOP型ACVR1を発現するコンストラクトを遺伝子導入し、誘導型ACVR1発現株を作製した。作製したU2OS細胞株にACVR1を発現誘導し、さらにBMP7を添加する実験を行ったところ、これまでに示されていたように、FOP型ACVR1を発現させた株でBMPリガンド非依存的な恒常活性化とBMPリガンド依存的な過剰活性化が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
申請時の計画のうち、対象患者のリクルート、iPS細胞作製、多能性の検討は平成25年度に終了していた。平成25年度より継続して行っていたrescued iPS細胞の作製は、平成25年度に作製した患者とは別の患者のiPS細胞の1クローンから、2ライン作製することに成功した。これらのFOP-iPS細胞とrescued iPS細胞から、骨軟骨細胞の前駆細胞である未分化間葉系細胞へ分化誘導することに成功した。さらに、未分化間葉系幹細胞から骨細胞および軟骨細胞を誘導することに成功し、FOP細胞とrescued細胞で比較したところ、FOP細胞の方がrescued細胞より軟骨誘導能が亢進していることを示すことにも成功した。一方で、当初予定していた血管内皮細胞への誘導は、研究所内の専門家との共同研究を行ったにもかかわらず、十分な効率で細胞を得ることができず、また得られた細胞は増殖しなかったため、研究の継続を断念した。また、誘導型ACVR1発現細胞株として、申請時には野生型iPS細胞への導入を計画していたが、シグナルをより顕著に検出できるヒト骨肉腫細胞株(U2OS)にコンストラクトを導入し、これまでに他のグループから発表された結果と同様の結果を得ることができた。以上から、血管内皮細胞への分化誘導は実験上の問題から断念したものの、その他については当初の予定通り、あるいは方針を変更して進行しており、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
平成27年度は、当初の予定通り、1. FOP 罹患者由来iPS 細胞を用いた病態解明と、2. in vivo モデルマウスでの検証を行う。1. FOP 罹患者由来iPS 細胞を用いた病態解明平成26年度に作製に成功したFOP細胞とrescued細胞から誘導した未分化間葉系幹細胞と、そこから分化した軟骨細胞を用いて、網羅的遺伝子解析による軟骨化を誘導する遺伝子群の同定、さらには解析により得られた遺伝子群のノックダウンを行う。また、パスウェイ解析によるシグナル伝達経路の解明、およびシグナル阻害薬添加などを行い、軟骨化にどのように影響するかを検討する。2. in vivo モデルマウスでの検証上記解析により得られた遺伝子群とシグナル伝達経路について、in vivo で検討する。モデルマウスを用い、そこにノックダウン用siRNA の投与、あるいはシグナル伝達阻害剤の投与を行う。FOPモデルマウスとしては、ACVR1/ALK2遺伝子座にR206Hを導入したノックインマウスのキメラマウスが、ペンシルバニア大学のEileen Shore 博士らにより作製されているため、この提供を依頼する。提供を受けることが不可能な場合は、BMPタンパクの投与や、あるいはFOP罹患者由来iPS細胞より作製した未分化間葉系細胞の移植などにより、モデルを作製することも検討する。
平成26年度の当初計画では、平成25年度に引き続き、必要に応じて新たなFOP罹患者のリクルートを行い、新たに作製したiPS細胞の多能性の検討を行う予定であった。しかし、平成25年度に複数のFOP患者からiPS細胞の樹立を終えることができたため、平成26年度は樹立を行わなかった。そのため、その実験に充当する予定であった資金を翌年に繰り越すこととなった。
平成27年度は、もっとも研究が進んだ未分化間葉系細胞をFOP細胞とrescued細胞から誘導し、さらにそこから分化した軟骨細胞を用いて、網羅的遺伝子解析を行う予定である。さらには、FOP変異による軟骨化の亢進を引き起こす遺伝子群の同定、それら遺伝子群のノックダウン実験を予定している。当初想定していたのはサンプル数がFOP細胞と対象細胞の2種類、タイムポイントが6点であったが、これまでの解析によりさらに多くのタイムポイントを取る必要が生じている。また、RNAi実験についてもより多くの遺伝子について検討する可能性があり、繰り越した資金は、網羅的遺伝子解析のためのRNAseq関連試薬、ノックダウン用のRNAiなどの高額試薬に充当する予定である。
進行性骨化性線維異形成症罹患者由来iPS細胞を用いて、病態再現と創薬に向けたアッセイ系の構築に成功 池谷真、戸口田淳也 京都大学/JST 2015/3
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