研究課題
基盤研究(B)
「骨形成を活性化するメカニズム」として掲げた3つの作業仮説「骨髄腔維持因子の低下」、「骨形成性の血管内皮細胞増生」、「骨形成性の細胞外基質タンパク質産生」の追究を進めた。連携研究者と共同で作製した、ドキシサイクリン(DOX)誘導性コンディショナルFra-1 トランスジェニックマウス(TetO-Fra1; Rosa-rtTA)を導入し、Fra-1 の発現誘導をかけて表現型を解析した【実験1】。1週間の誘導で、長管骨の骨髄において骨梁の増生が認められた。その際、骨髄に置いてFra-1の発現誘導がかかっていることを、定量RT-PCRおよび、蛍光抗体法によって示した【実験2】。さらに、組織学的解析を行い、抗オステオカルシン抗体で骨芽細胞を染色した【実験3】。コンディショナルFra-1トランスジェニックマウスを、骨芽細胞や血管内皮細胞の可視化マウスと交配する実験を進めた【実験4】。マイクロアレイにより、DOX 投与後に、長管骨から、皮質骨を集め発現解析を行い、発現の増減する遺伝子のリストを得た【実験5】。骨芽細胞特異的Osterix-tTAマウスと、血管内皮細胞特異的VE-cadherin-tTAマウスとを導入し、細胞特異的Fra-1 トランスジェニックマウスの作製を開始した。3つの作業仮説の内、骨形成性血管内皮細胞の増生の発達についての検討を優先して進めるべき状況証拠を集積した。また、恒常的Fra-1トランスジェニックマウスとDOX誘導性Fra-1トランスジェニックマウスの両方について、耳小骨のツチ骨(malleus)短突起を形態学的に解析したところ、Fra-1トランスジェニックマウスでは、骨形成性血管が容易に認められた。
2: おおむね順調に進展している
ドキシサイクリン(DOX)誘導性コンディショナルFra-1 トランスジェニックマウスによって、これまで長年解析してきた恒常的にFra-1を強制発現するマウスのデータの再現性を確認できた。コンディショナルFra-1トランスジェニックマウスを用いて生後にFra-1発現誘導をかける実験から、骨形成の活性化は、発生が終わってからも可塑的に生じるフェノタイプであることが明確になった。具体的には、生後8-12週齢のコンディショナルトランスジェニックマウスにDOXの入ったペレットを食べさせ、1週間ほどすると骨髄腔に骨梁が増加してくる様子が、マイクロCTおよび組織学的解析によって確認できた。ツチ骨短突起において、骨形成性血管が増生していた(血管腔体積の減少が抑制されていた)ことから、3つの仮説のうち、「骨形成性の血管内皮細胞増生」をつきつめるべき状況証拠が得られた。ただし、コンディショナルFra-1トランスジェニックマウスを、骨芽細胞や血管内皮細胞に特異的転写活性化(tTA)マウスと交配したものの、解析できるだけの個体が得られていない。
平成26年度は、「骨形成を活性化するメカニズムは、骨形成性の血管内皮細胞増生である」という作業仮説に基づき、以下の3つの実験を行う。【実験1】血管内皮細胞株(マウスC166 細胞)を用いた実験: C166細胞にFra-1と、対照の緑色蛍光タンパク質(GFP)を強制発現する。まず、血管内皮細胞そのものが、Fra-1の働きで骨芽細胞に分化する可能性を、アルカリフォスファターゼ活性染色、定量PCRによる骨芽細胞マーカー遺伝子の解析により検討する。骨芽細胞分化への可能性があれば、マイクロアレイを用いた比較により、網羅的な解析を行う。直接の骨芽細胞への分化が認められない場合には、血管内皮細胞が、骨芽細胞の増殖・活性化を担う因子を産生している可能性を検討する。さらに、Fra-1 を強制発現させた血管内皮細胞株と、頭蓋骨由来初代骨芽細胞とを共存培養し、骨芽細胞分化・活性化の促進が認められるかどうかを、形態学的指標やマーカー遺伝子の発現、Alizarin red 染色などで検討する。さらに、マイクロアレイのデータを活用するなどして、骨芽細胞活性化因子の同定を目指す。【実験2】全身性コンディショナルFra-1トランスジェニックマウスを用いた実験: doxycyclineを与えてFra-1発現を誘導したマウスの骨髄腔における血管の増生が、骨梁増加に先だって起こるかどうかをwhole mountの蛍光抗体染色法によって検討する。骨芽細胞と相互作用する内皮細胞のサブタイプについても検討する。【実験3】細胞特異的Fra-1トランスジェニックマウスを用いた実験: 骨芽細胞特異的および血管内皮細胞特異的Fra-1トランスジェニックマウスを作製する。交配の段階からdoxycyclineを与えて、OFFの状態でマウスを得ることを目指す。これらのマウスにおいて、骨形成が活性化されるかどうかを検討する。
耳小骨(ツチ骨)における微小血管の解析は進んだが、コンディショナルトランスジェニックマウスの長管骨の解析で、血管のイメージングなど新しい実験手法を確立する必要があり、次年度に解析する必要が生じたため。血管内皮細胞や血管傍細胞、骨芽細胞などを骨の(切片でなく)ホールマウント(whole mount)で解析する実験手法を確立し、そのための抗体や、試薬の購入費用に充当する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Opt. Express
巻: 4 ページ: 917-923
10.1364/BOE.4.000917