研究課題/領域番号 |
25293332
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
羽渕 友則 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00293861)
|
研究分担者 |
大山 力 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80282135)
湯浅 健 公益財団法人がん研究会, その他部局等, 研究員 (00314162)
南條 博 秋田大学, 医学部, 准教授 (70250892)
土谷 順彦 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70282176)
沼倉 一幸 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90566415)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 高脂肪食 / 前立腺癌 / 腎細胞癌 / リン脂質 / 肥満 / パルミチン酸 / イノシトールリン脂質 |
研究概要 |
近年の泌尿器癌の増加は著しいが、原因として高カロリー・高脂肪食の影響が示唆されている。本研究では、さらに近年のメタボロミクスの包括的解析手法の発展を生かして、肥満に伴う泌尿器癌申請の分子機構を多方面から解明、標的分子を同定し、治療や予防への可能性を検討するものである。 25年度は、最も生体内で豊富にある飽和脂肪酸であるパルミチン酸(PA)に注目し、前立腺癌と高脂肪食との関係を分子レベルで解析し、論文発表した(Huang, Habuchiら、2014、Endocrine-Related Cancer)。すなわち、まず前立腺癌細胞の4株中3株において、まずvitroでPA添加により、その増殖が促進されることを示した。次に、PA添加によって上昇するサイトカインを調べたところMIC-1(macrophage inhibitory cytokine 1)の発現か非常に亢進することを見出した。LNCaPを持つ担癌マウスに高脂肪食をあたえると血清MIC-1レベルが非常に高いことを示し、vitroでMIC-1添加により増殖や浸潤能が亢進することを示した。高脂肪食血清には前立腺癌細胞に対する増殖促進能があるが、この促進能は抗MIC-1抗体によってブロックされることが分かった。臨床的にもMIC-1の血清レベルは前立腺癌の悪性度や肥満と関連があった。したがって、高脂肪食(肥満?)による前立腺癌進展にはMIC-1が深くかかわっており、このMIC-1は治療ターゲットになりうると思われた。 次のプロジェクトとして、このPA合成に深く関与するFatty acid symthetase(FASN)と前立腺癌進展の分子機構を評価している。これまで高脂肪食群では低脂肪食群より癌組織中の FASN mRNAが亢進していることなど、多くの知見が得られ、現在さらにFASNを取り巻く分子機構を解析中である。 また、前立腺癌や腎癌細胞を用いて、PI3Kなどのリン脂質を測定しており、今後これらのリン脂質を包括的に測定することで、新規の脂質分子マーカーや治療標的分子を同定することを試みる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまでの細胞生物学的手法と近年のメタボロミクスの包括的解析手法の発展を生かして、肥満に伴う泌尿器癌申請の分子機構を多方面から解明、標的分子を同定し、治療や予防への可能性を検討するものである。 ①最も生体内で豊富にある飽和脂肪酸であるパルミチン酸(PA)に注目し、前立腺癌と高脂肪食との関係を分子レベルで解析し、PAによる前立腺癌進展の下流分子にMIC-1が重要で、MIC-1は治療ターゲットになりうることを、分子レベルで示し、論文発表できた(Huang, Habuchiら、2014、Endocrine-Related Cancer)。 ②共同研究者と共同で、多くのイノシトールリン脂質(PIPs)などの精密な測定系を立ち上げ、腎癌細胞や前立腺癌細胞において、様々なイノシトールリン脂質の細胞内濃度測定に成功している。この精密な測定系は、我々の知る限り、世界でも2-3施設しか確立しておらず、生体において非常に重要な役割を担うイノシトールリン脂質と癌進展や高脂肪食との関係が別の角度から解明できると期待される。現在、癌の脂質分子マーカーや治療ターゲットとなりうるリン脂質の同定を試みている。 ③PA合成に深く関与するFatty acid symthetase(FASN)と前立腺癌進展の分子機構を評価中で、これまで高脂肪食群では低脂肪食群より癌組織中の FASN mRNAが亢進していること。血清FASNは高脂肪食群では低脂肪食群より有意に低く、癌の大小と逆相関し、高脂肪食群では、癌組織中の PI3K, MAPK シグナルが亢進、AMPK シグナルは低下してこと等を観察しており、現在さらにFASNを取り巻く分子機構を解析中である。 以上、およその本研究の目的どおり、高カロリー・高脂肪食による泌尿器癌進展の分子機構を、従来の細胞生物学的解析と、近年のメタボロミクスの包括的解析手法の発展を生かして多方面から解明、標的分子を同定し、治療や予防への可能性を検討できつつあると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
①肥満で罹患率が高いと考えられる前立腺癌や腎癌腫瘍組織における脂質プロファイルを解析するため、手術で採取された癌組織と同患者から採取された正常前立腺や腎実質組織におけるイノシトールリン脂質(PIPs)とその代謝産物、またこれまでに癌と関係があると考えられているセラミドやスフィンゴミエリンなどの脂質代謝産物を定量的に比較解析する。 ②PIPs代謝酵素欠損による病態解析:代表的ながん抑制遺伝子産物PTENはPIP3の脱リン酸化酵素である。しかしながら、その欠損を伴う癌組織で実際にPIP3の定量がなされた例はない。新技術をPTEN欠損マウスに適用し、発癌前後でのPIP3レベルを比較、解析する。 ③臨床検体を用いたリン脂質プロファイリング: 今後、肥満や高脂肪食がリスク因子と考えられている前立腺がん患者と前立腺生検検査で悪性がないと診断済みの正常男性の治療前末梢血検体を用いて、血液内のPIおよびPIP3の測定に着手する。また、次年度以降に計画している、尿エクソソーム内のPIPsプロファイリング解析のための尿検体サンプル採取を開始したため、この検体から質の高いエクソソームを抽出する作業を始める。このように、メタボロミクスの包括的解析手法の発展を生かして多方面から解明し、脂質分子マーカー、治療や予防標的分子の同定を試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
細胞の遺伝子導入による形質転換に時間を要したため、次のアッセイや動物実験が次年度になったため、予算繰り越しとなった。 実験に必要な酵素、キット、動物等の消耗品に使用する
|