研究課題/領域番号 |
25293341
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉川 史隆 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40224985)
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研究分担者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00345886)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 上皮間葉転換 / 中皮細胞 / TGF-ベータ |
研究実績の概要 |
本課題の目的は卵巣癌細胞によって活性化された癌関連中皮細胞(cancer-associated mesothelial cell: CAM)がいかに腫瘍細胞の腹膜親展に加担しているかを、サイトカイン/ケモカイン、microRNA、および薬剤耐性化などの側面から明らかにすることである。研究2年目にあたる本年の研究実績の概要は以下の通りである。1) これまでCAMは大網由来ヒト中皮細胞の初代培養を通じて作成していたが、検体に応じて様々なバリエーション細胞が存在するため、均一phenotypeを持つ新たなCAM化再現可能な細胞株の構築が急務であった。今回は中皮細胞にhTERT/SV40発現ベクターをstable発現させた新規HPMC-pGLO細胞の樹立に成功した。HPMC-TERTはこれまでの不死化中皮細胞と異なり特有の敷石状細胞・上皮細胞形態を保っており、TGF-βで誘導される中皮のEMT化(CAMの実験的模倣)を再現できた世界で初めての細胞株である。2) 腫瘍-中皮細胞間の双方向性細胞コミュニケーションに基づく局所的TGF-βリッチな微少環境の存在をすでに明らかにしている。その環境下では腹腔内で広範囲なCAM化が生じており、その一端がCAMからのVEGF発現亢進が癌性腹膜炎悪化の一端を担うことを明らかにした。現在VEGF antagonistの添加によってCAM化を抑制し、引いては癌性腹膜炎の沈静化につながるかどうか検討中である3) TGF-βにより、パクリタキセル耐性卵巣癌細胞ではZEB1誘導性にTGF-βシグナル経路の活性化とEMTが誘導され、二次的に転移能が亢進するメカニズムを追求している。その際の局所TGF-β accumulationがZEB1ノックダウンで抑制されることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の骨子は、主として1)腫瘍側のEMT、2)中皮側のEMT、3)局所TGF-β accumulationに基づく癌性腹膜炎悪化のメカニズムとその沈静化、などに分類される。本年度は1)についてはHOXB13とALX4は複合体を形成し、これらの相互作用がSlugの発現の調節メカニズムであることが卵巣癌の腹膜播種に重要な役割を果たすことを示すことができた。この結果を「Oncotarget」誌に投稿しすでに受理が決定している。また、2)に関しても新規HPMC-pGLO細胞が樹立されたことによってさらに研究が加速することが期待される。3)主として卵巣癌のZEB1発現を通じて薬剤耐性誘導性のEMTがsudden metastasisに重要な役割を担うことを示すことができた。現在これらの結果を踏まえて最終的な論文作成化を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ALX-1, ALX-4, ZEB1等をはじめとしたEMT誘導転写因子がメタジェニックストレスを誘導し、種々の薬剤耐性にも関与していることを明らかにしてきた。今後は動物実験を中心に卵巣癌の腹膜播種抑制と薬剤耐性克服を狙った腫瘍-中皮の両面から戦略的EMTターゲット治療を目指す。また、倫理委員会の承認に元に蓄積してきた臨床サンプルの包括的解析を通じて「橋渡し研究」に通じる方向性を探る予定である。
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