研究課題/領域番号 |
25293349
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
湯本 英二 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (40116992)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 喉頭麻痺 / 筋衛星細胞 / 神経筋接合部 / 発声機能 / 健側声帯過内転 |
研究概要 |
基礎研究では8週齢メスWistar系ラットを用いて筋衛星細胞の動態を脱神経群と神経縫合群で比較した。左反回神経を切断した脱神経群(52匹)と、切断後11-0ナイロン糸で端々縫合を行い縫合部をシリコンチューブで被覆した神経縫合群(52匹)、および反回神経を露出しただけのSham群(12匹)を作製した。衛星細胞のマーカーとしてM-cadherin、MyoDを用い免疫染色で同定し、real time PCRでこれらの発現を定量した。神経筋接合部の神経終末を抗Synaptophysin抗体、アセチルコリン受容体(AchR)をα-Bungarotoxinで反応させて同定した。3日後、および1、3、5週後に評価した。Sham群の発現を1としたときM-cadherin mRNAの発現は脱神経群、神経縫合群とも3日後に8-10と著明に増加し、その後、低下した。神経縫合群におけるM-cadherin mRNAの発現は3日後、1週後にSham群より有意に増加したが、3、5週後にはSham群の発現と有意差がなかった。また、3週後のM-cadherin mRNAの発現は脱神経群の方が有意に神経縫合群よりも増加していた(p<0.05)。5週後も同様な傾向であった。MyoDも同様な動態であった。神経終末が再生したAchRは脱神経群にみられなかったが、神経縫合群ではAchR全体に占める神経終末が再生したAchR数の割合は3週で31%、5週で38%と増加した。一方、5週後の神経縫合群の筋線維はSham群に近い筋線維と径の細い筋線維が混在していた。萎縮したままの筋線維を正常に戻すには衛星細胞の活性を3週以後も持続させることが望ましいと考えられた。 臨床研究では、三次元CTと発声機能の関連を検討し、喉頭麻痺患者に観察される発声時健側声帯の過内転は発声機能を代償しないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎研究では、神経縫合群で神経筋接合部が再生するにつれて平均筋線維径が増加し、同時に筋衛星細胞の活性が低下することが明らかになった。しかし、すべての筋線維径が増加するわけではなく萎縮したままの筋線維が存在した。一方、脱神経群では経過とともにアセチルコリン受容体(AchR)数が徐々に低下し筋線維径も減少した。脱神経群動物の活性化した筋衛星細胞は1週後に著明に増加しその後減少した。脱神経3週後に筋衛星細胞は神経縫合群よりも有意に多かったが1週後に比較して半分以下に減少した。神経縫合群ではすべての筋線維径を正常に戻すために、また、脱神経群では筋線維の萎縮を回復させるために、いずれの場合も処置1週後に活性化した衛星細胞の数を長期間にわたって維持することが重要であろうと思われた。 臨床研究では、過去に集積した一側喉頭麻痺患者における発声機能と三次元CTデータに基づいて、発声時に観察されることのある健側声帯過内転が本当に発声機能の改善に役立っているかどうかを検討した。その結果、発声機能が悪いにもかかわらず健側声帯の過内転が観察されない症例が少なからず存在すること、過内転がみられてもみられない症例に比して発声機能に差が無いことなどから、健側声帯過内転は発声機能を代償するものではないことを明らかにすることができた。さらに、特発性喉頭麻痺患者の嚥下造影検査を行って胸部疾患による反回神経単独麻痺例の嚥下動態と比較することで、特発性喉頭麻痺患者の神経傷害部位は反回神経だけでなく下咽頭収縮筋を支配する、より中枢レベルにおける障害であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
基礎研究では、脱神経・神経再支配に伴う筋衛星細胞の数、増殖能、および分化能の変化をさらに詳細に検討する。また、同様に脱神経・神経再支配に伴う声帯粘膜固有層の細胞外成分の変化を検討する。 臨床研究では、研究期間中に症例集積を進める。とくに音声改善手術を予定した症例を対象に三次元CT検査、発声機能検査、ストロボスコピー、および筋電図検査を行う。麻痺発症後、手術までの間に起こったと思われる神経再支配の程度、神経過誤再生の程度を筋電図所見から推定し、三次元CTに基づく声帯の形態・発声機能との関連を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に細胞分離抽出ソフトウェア120万円を購入予定としていたが、既存のソフトウェアを組み合わせることでほぼ同様の処理が可能となったため購入しなかった。筋電図検査装置は実際の購入価格が見積価格よりも約26万円低くなった。また、脱神経群、神経再建群と神経再建+薬剤(Nimodipine)投与群を作製する予定であったが、神経再建+薬剤(Nimodipine)投与群は平成25年度中に作製できなかった。以上の理由により、次年度使用額が生じることとなった。 平成26年度は神経再建+薬剤(Nimodipine)投与群を作製し、脱神経群、神経再建群と神経再建+薬剤(Nimodipine)投与群の長期経過した動物を評価するために平成25年度から持ち越した研究費を使用する予定である。
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