研究課題/領域番号 |
25293350
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
久 育男 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50181087)
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研究分担者 |
廣田 隆一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70405306)
板東 秀樹 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50433272)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 喉頭 / 疑核 / 運動神経細胞 / premotor neuron / ステロイドホルモン |
研究実績の概要 |
呼吸、発声、嚥下、咳などの多機能性を有する喉頭運動を最終的に駆動するのは疑核に存在する喉頭運動ニューロンである。喉頭運動ニューロンのpremotor neuron (PMN)も多機能性を有するとされ、喉頭運動の様々な機能を支配している。実際に一部のPMNは嚥下、咳などでその特徴的な活動を呈することが証明されている。そこで喉頭premotor neuron (LPMN)の活動性の解析を目指し研究を行った。LPMNの解析対象領域には後疑核、橋背外側領域が挙げられる。当初の予定では平成26年度に後疑核に存在するLPMNの活動記録を予定していたが、その効率的な活動記録の実現を優先させ、延髄の全般的な喉頭多機能性の解析を行った。喉頭運動は安静時呼吸に同期した運動を呈する。従って喉頭運動ニューロンの多くは呼吸性活動を示し、LPMNも呼吸性活動を呈する。まず、延髄腹側呼吸ニューロンの発声、嚥下、咳時の活動性の変化を解析した。除脳非動化モルモットにて、非動化発声、嚥下、咳時の活動を呼吸時と比較すると、呼吸ニューロンの活動毎にその特徴的な活動パターンの変化を示し、喉頭の多機能性に貢献していることが解明された。また嚥下、咳反射生成機構の中核を限定するために、傍顔面神経領域の呼吸関連ニューロン解析も行った。また、喉頭神経機構に対する性ホルモンの関与についても研究をすすめた。雄マウスの疑核・迷走神経背側核は性ホルモン受容体を発現しており、性ホルモンが喉頭の神経支配に影響を与える可能性を示している。本年度は性ホルモン受容体陽性細胞の支配臓器の検討に加えて、免疫組織学的特性について検討した。陽性細胞はcholine acetyltransferaseやcalcitonin gene-related peptideを発現していた。以上は 喉頭神経機構の解明に重要な研究実績と成り得るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の予定では後疑核の喉頭運動ニューロンのpremotor neuron (LPMN)の発声、嚥下、咳時の活動記録を予定していたが、その効率的な同定や活動記録を目的として、延髄呼吸ニューロンの喉頭多機能性に関する活動性の解析を行った。その結果、延髄腹側呼吸ニューロン群は呼吸時と活動パターンを変化させ、発声、嚥下、咳運動生成に貢献することが解明された。さらにその活動パターンは呼吸時の活動タイプにより特徴的な変化を呈する傾向がみられることが分かった。また、解析されたニューロンの一部はLPMNである可能性があり、LPMN解析という当初の研究予定に合わせて考慮しても、当初に予想された研究内容の範疇である。さらに、多機能性を有する喉頭運動調節機構についての解析を追加したことにより、LPMN解析を補完する情報が得られた。また、喉頭神経機構へのステロイドホルモン関与の検討に関しては、逆行性トレーサー(コレラトキシンB)注入実験の結果から、気管や食道を支配する疑核(NA)や迷走神経背側核(DMV)の神経細胞の一部がアンドロゲンレセプター(AR)、エストロゲンレセプターα(ERα)を発現していることが判明した。マウス喉頭へのトレーサーの確実な注入が手技的に困難であるため、喉頭を支配する神経細胞について性ホルモン関与の証拠は得られなかったが、DMVにおける受容体の分布からは性ホルモンが喉頭腺分泌機能や血流制御に関与している可能性も考えられる。次年度の追加研究は必要となるが、その基盤となる結果は得られたと考える。また、NA・DMVにおけるAR・ERα陽性細胞の大部分がcholine acetyltransferaseやcalcitonin gene-related peptideを発現することも判明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は本年度の研究結果を踏まえ、後疑核、橋背外側領域に存在する喉頭運動ニューロンのpremotor neuron (LPMN)の発声、嚥下、咳時の活動性記録を行う。平成26年度の研究結果により、LPMNの同定や喉頭運動時の活動性記録をより効率的に行う基盤が出来ただけでなく、安定した呼吸ニューロン活動の記録や、非動化発声、非動化嚥下、非動化咳の惹起とその際の呼吸ニューロン活動の記録が実現できたことにより、後疑核のLPMN活動記録に加え、橋背外側領域のLPMNの記録も同時に実現できる可能性が高くなった。また、嚥下、咳生成機構の中核が延髄に存在することが確かめられた。しかし、LPMNの同定の困難さは先行研究より十分予想される。その際は発声、嚥下、咳生成神経ネットワークの解析を同時に行う。予想されるようにLPMNが喉頭運動生成メカニズムの生成および制御に重要な役割を担っているのであれば、それぞれのネットワークに共有されているはずである。従って発声、嚥下、咳生成神経ネットワークに必須な領域を同定することもLPMN活動解析にとって重要な情報となる。PMN同定に必要なニューロン間同士のスパイクトリガーアベレージング法(STA)はその技術的困難さ故、同定効率の悪さが懸念される。従ってその場合はPMN同定のため同側の反回神経とのSTAを考慮する。この方法により、より効率よくLPMNの予想が出来、さらに細胞ラベリングを行うことにより組織学的にもその投射経路を確認することが出来る。喉頭神経機構へのステロイドホルモン関与の研究については疑核・迷走神経背側核に対する性ホルモンの関与について詳細な解析を継続する予定である。去勢やホルモン添加による受容体発現の変化を検討する。ストレスが発声障害を誘発することも知られており、グルココルチコイドが喉頭神経機構に与える影響についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度および平成26年度施行予定であった研究実施計画の一部が平成27年度に移行し、それに伴って学術研究助成基金助成金を使用しての物品購入の時期も平成27年度に延期したために未執行額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
疑核運動神経細胞へのpremotorニューロンの活動解析および疑核運動神経細胞におけるステロイドホルモンの作用機序に関する研究遂行のため、平成27年度研究実施計画に沿って使用する予定の記録機器一式および免疫組織化学に使用する物品の購入に充てる予定である。
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