研究課題/領域番号 |
25293354
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
不二門 尚 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50243233)
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研究分担者 |
森本 壮 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00530198)
松下 賢治 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40437405)
神田 寛行 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50570248)
三好 智満 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70314309)
辻川 元一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教授 (70419472)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経保護 / 電気刺激 / ラマン分光 / 人工網膜 / 補償光学眼底カメラ / 錐体密度 / 神経賦活 |
研究実績の概要 |
当該研究は、電気刺激による網膜神経保護・賦活”に関する詳細なメカニズムをラマン分光で解明する基礎的研究と、経角膜電気刺激(TES)の効果に関する臨床的研究、人工網膜による電気刺激の視機能改善に関する臨床研究を目的としている。これまでにラマン分光により、神経細胞死の初期の細胞内変化として、チトクロームC(cyt c)の細胞内の分布(ミトコンドリアを反映していると考えられる)が、組織染色をしなくても観測できることを示してきた。本年度は cyt cのラマンシグナルの低下が実際の細胞内cyt cタンパク濃度と関連するかを検討したが、相関は得られなかった。今後さらにメカニズム検討する予定である。網膜色素変性(RP)では視力低下する前から錐体密度が低下することが知られているが、これを他覚的に調べるために、補償光学眼底カメラを用いた視細胞密度の計測法を開発した。その結果、傍中心窩の錐体密度と、コントラスト感度が有意に相関することが示された。また、可視光刺激により補償光学眼底カメラで測定される近赤外光に対する反射光量が変化することを見出し、初期RPの錐体機能変化を機能画像として捉えられる可能性が示唆された。網膜色素変性に対する経角膜電気刺激の効果:RP 13例15眼に対する経角膜電気刺激(TES)の効果を臨床例で検討した。電気刺激後ハンフリー視野計の中心窩感度がTES群でコントロールと比較して維持される傾向があったが有意差はなかった。人工網膜による視機能改善の評価:本邦独自の人工網膜による1年間の臨床研究を行った。歩行テストでは3例中2例でスイッチをONした場合にOFF時より正確さが向上した。また人工網膜埋植後6か月の時点でスイッチOFF時の視力が、術前と比較して3例中2例で向上した。これは人工網膜による継続的な電気刺激により、網膜賦活効果が得られたためと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は、電気刺激による網膜神経保護・賦活”に関する詳細なメカニズムを解明する、基礎的研究と、経角膜電気刺激(TES)の効果に関する臨床的研究、人工網膜による電気刺激の視機能改善に関する臨床研究を目的としている。 基礎研究では、ラマンスペクトラムを使うと、神経細胞死の初期の細胞内変化が、組織染色をしなくても観測できる可能性が示されたことが大きな成果である。 補償光学(AO)眼底カメラを用いた傍中心窩の錐体密度の計測値が、コントラスト感度とよく相関することが見いだされた。初期網膜色素変性症(RP)における微妙な視機能の低下を、客観的な指標で評価できることが示されたことも重要な成果である。今後TESの視細胞保護効果を評価する指標として使用する予定である。 AO眼底カメラを用いた錐体の機能イメージングの研究では、可視光で網膜を刺激すると、近赤外光で計測される網膜の反射光量の変化が見いだされた。これを電気刺激によるイメージングと組み合わせると、初期RP患者における網膜内層の機能評価ができる可能性がある。これは独創的な研究で、Plos Oneに掲載された。 RPに対するTES治療の臨床研究では、少数例での検討では視野の改善に統計的に有意差はなかったが、人工網膜を埋植した患者では、スイッチOFF時の視力が埋植術後6か月で術前よりも改善が見られた。継続的な電気刺激が神経賦活に有効な可能性があり、今後人工網膜の治験を行い、多数例で検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
電気刺激による網膜神経保護・賦活に関するその詳細なメカニズムの解明に関しては、ラマンスペクトラムを用いて、培養神経細胞に対して電気刺激を与えた条件で検討する予定である。 初期RPに対するTES治療の臨床評価は、これまでに得られた成果を基に、補償光学(AO)眼底カメラを用いた傍中心窩の錐体密度および、可視光刺激に対する近赤外光で計測される網膜の反射光量の変化を指標として、精密に検討する予定である。 人工網膜による視覚回復、および網膜賦活効果に関しては、少数例の臨床研究で得られたこれまでの成果を発展させ、多数例において視覚回復が得られるか、神経賦活効果が得られるかについて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
電気刺激による神経保護・賦活効果の機構を分子レベルで検討することを目的とする当該研究では、培養神経細胞の実験で、ラマン分光画像でグルタミン酸を投与後、細胞死の初期の状態で、チトクロームCのピーク値が減少することを見出した。その詳しい分子メカニズムを知るうえで行った実験で、チトクロームCのラマンシグナルの強度と、チトクロームCの蛋白濃度に有意な相関が認められないことが判明した。このために、実験を追加する必要があり、当初計画より時間がかかるので、研究の延長を申請し、実験に必要な費用を繰り越すこととしたから。
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次年度使用額の使用計画 |
培養神経細胞を用いたラマン分光の実験で、ラマンcyt cシグナル強度とcyt cのタンパク濃度と有意な相関を示さなかった。このメカニズムを探究するために、細胞内のcyt cを蛍光色素であるGFPで標識したRGC5細胞を樹立し、グルタミン酸投与前のRGC5細胞のGFPシグナルとラマンcyt cシグナルの相関を調べる実験を行う。
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