研究課題/領域番号 |
25293357
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉田 直 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 副プロジェクトリーダー (10299456)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 網膜色素上皮細胞 / MHC抗原 / 炎症細胞 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
本年度はヒトiPS細胞由来網膜色素上皮細胞 (human iPS-RPE) 、マウスiPS細胞由来RPE (mouse iPS-RPE)、およびサルiPS細胞由来RPE (monkey iPS-RPE)を分化・誘導した。我々はhuman iPS-RPEのT細胞などの免疫炎症細胞の免疫調節作用を解析し、報告したが(Sugita S et al, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015)、同様の方法を用いて、mouse iPS-RPEおよびmonkey iPS-RPEの免疫抑制能も解析した。いずれのRPE細胞もT細胞、B細胞らの強い抑制を示した(論文投稿中)。我々は、MHCホモラインのmonkey iPS-RPEを樹立した。カニクイザルiPS-RPEのMHC発現やtypingはflow cytometry及び遺伝子多型アリル解析で確認した。また、そのiPS-RPEを他家移植(MHC一致 vs不一致)で網膜下に移植して、術後1、2、4、8週、3ヶ月、6ヶ月で眼底写真、蛍光眼底撮影(FA)、網膜断層検査(OCT)で拒絶の有無を評価した。その結果、MHC不一致の組み合わせではFAでのリーク、OCTでの黄斑浮腫、網膜剥離、網膜の非薄化など拒絶を示唆する所見が見られた。一方、MHCアリルサル(MHC一致)への移植では炎症の所見はなく網膜はintactであった。これらの結果、サルのRPE他家移植モデルでは、免疫系の細胞がMHCの型が合わないRPEを認識、逆に、合うRPEを認識しない可能性が示唆された。の網膜病理切片を用いて抗原提示細胞やT細胞の浸潤などを免疫染色にて検討したところ、MHCホモのサルiPS-RPE細胞のMHCが合う他家移植では、上記炎症細胞の網膜内浸潤、グラフト内やその周辺の浸潤がみられなかった(炎症の所見はなくグラフトはきれいに生着)。一方、普通のコントロールサルiPS-RPE細胞のMHCが合わない他家移植では、グラフト内やその周辺、また、網膜内に激しい炎症の所見がありグラフトは生着していなかった(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vivoのサルを用いた試験では上記したように、MHCが合うMHCヘテロサルのiPS-RPE他家移植では、MHCホモのサルiPS-RPE細胞が拒絶反応を起こさずに生着していた。また、In vitroの試験では正常サルの末梢血細胞やT細胞を用いて、MHCホモiPS-RPE細胞と共培養し、T細胞の活性化を見ると対照と比べて、一方、MHCが合うMHCホモiPS-RPE細胞は活性化が見られなかった。この結果はiPSバンクのHLAホモRPEラインを他家移植で使用できる可能性があると思われた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上記In vitroのRPE拒絶反応試験を健常人および網膜変性疾患患者で行う。HLAホモiPS-RPE細胞を分化誘導して培養中であり、上記被験者の末梢血細胞やT細胞を用いて細胞増殖試験を行う予定である。また、vivo試験では、現在は上記サルのRPE移植に実際に臨床で使用する予定のステロイドや免疫抑制剤の使用をしており、その評価中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の準備を進めていたが、こちらが希望していた産地の動物(カニクイザル)を年度内に入手することが難しくなったため、次年度に持ち越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
正常カニクイザルの網膜下にRPEシートまたは細胞浮遊液を投与しその拒絶反応についてin vivoでの観察(カラー眼底撮影、OCT網膜断層撮影、FAG蛍光眼底造影撮影)、また眼内組織を回収し遺伝子分子レベルでも炎症反応(炎症性サイトカイン・炎症性ケモカインmRNA)があるかどうか検討する。移植片生着の有無は1週、2週、1, 3, 6ヶ月後に観察する。カニクイザルiPS由来RPE細胞や対照細胞(iPS細胞など)を用いて自家移植、他家移植で移植片生着の違い、拒絶反応の有無について検討する。
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