本研究では、「敗血症患者をはじめとする急性期重症患者で過剰に分泌されている内因性カテコラミンが直接あるいは間接的に、生体免疫機構の根幹をなす腸管免疫機構及び腸内細菌叢を修飾する」との仮説を基に、その機序とカテコラミン受容体遮断薬による腸内細菌叢と腸管免疫機構への保護効果を検討してきた。最終年度である平成27年度は前年度に引き続き、敗血症患者で高頻度に検出される菌種のうち大腸菌・表皮ブドウ球菌に焦点を当て、臨床検体由来の菌株を用いてカテコラミン添加による細菌増殖能を生体外実験系において探求した。ノルエピネフリン添加によりこれらの増殖能の亢進傾向を認めたが、その際に用いたノルエピネフリンが実際に侵襲時に腸管内腔に存在するとされる濃度では変化せず、非常に高濃度が必要なことを見出した。次の段階として、カテコラミン刺激による腸管内生理的抗菌物質の分泌能への影響を小腸ならびに大腸から単離したパネート細胞を含む小嚢腺を用いて検討した。mRNAレベルにおいて抗菌物質(リポカリン2、ディフェンシン)は内毒素との共培養により増幅することを見出した一方、カテコラミン添加による効果は一定の傾向を見出すことができなかった。当初の計画においては、これらの細胞外実験系の結果を基に、カテコラミン遮断薬の効果を生体内実験系で探求する計画であったが、生体内実験系において侵襲時に腸管内に存在する濃度においては腸内細菌叢及び腸管免疫機構を修飾する基礎データが不十分となり、生体内実験計画に着手できていない。総括として、一連の研究により仮説に反して、侵襲下で腸管内腔に過剰に分泌された内因性カテコラミンが腸管免疫機構及び腸内細菌叢へ与える影響はごくわずかであり、これまでに報告されているカテコラミン遮断薬による予後改善はこれらを介した機序によるものではないことが示唆された。
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