研究課題/領域番号 |
25293368
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
行岡 哲男 東京医科大学, 医学部, 教授 (00182668)
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研究分担者 |
依田 育士 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (00358350)
川島 理恵 関西外国語大学短期大学部, その他部局等, 講師 (00706822)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 救急医学 / シミュレーション教育 / 医学教育 / 会話分析 / 動線解析 |
研究実績の概要 |
初期研修医のシミュレーション教育を1年間ER内において、初期研修だけでなく、専門医の実施例も含めて21件実施し、同時にその状況を3D撮影として撮影した。また、初年度から継続している実処置例の3D撮影も継続実施した。これら実データと実際のシミュレーションデータを比較検討した。具体的な比較手法は、動線に関しては、昨年度開発したword法による35クラスに動線を分類し、心肺停止に関する実処置50データのうち開胸心マを行わない計41件から基礎データを作成し、その動線の分布状況で実処置との比較を行った。ただし、比較過程の中では様々なことが問題となった。特に、1)治療に参加する医療者の数、2)左右どちらの手からライン確保するか、3)比較時間単位、4)シミュレーション人形の種類、によって大きく動線のパターンが異なることが明らかになった。そこで、個人別移動総距離、役割別移動距離、AW完了、ライン完了などランドマークとなり得る時間単位での比較を繰り返しながら、各種比較条件を探った。そして、基本的には移乗時から6分間を比較対象とする、シミュレーション人形の選定とそのプログラム、各種実験条件など詳細条件を決定した。その結果、実処置例と、シミュレーション例の動線が近づき、よりリアルな実験条件を作ることが出来た。 また同時に、そのシミュレーション教育のビデオ映像から、会話を起こし、会話分析も並行して実施した。初期段階の観察としては、治療シミュレーション中の参加者達が、緻密な調整をしながら、指示や依頼を行っていることが分かった。 さらに、ER以外でも実行可能なシミュレーションの応用例として、救急隊員の傷病者搬送のシミュレーションを行った。救急隊員は、できる処置が限られているため、実利用がより容易である可能性が低いこと、また、救命バッグなどの道具の初期配置によって大きく移動効率が変わることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定通りに、ルーチンワークとして初期研修医のシミュレーションを実施し、そのデータを撮りため、解析を行った。その過程で、解析手法の適切さに関して、様々な問題(比較を可能にするため正規化、標準化の問題)にぶつかったが、それを具体的に解決してきた。 また、実際の教育を実施する中で、特にブリーフィングとデブリーフィング(事前教育と事後教育)を重視し、シミュレーション中のビデオ映像を直後に見ながら、最初に自分自身で考える手法などに取り組み、データ取得や解析だけでなく、実際の教育手法と密接に関連しながら研究を進めた。 ここで特に問題となったのは、初期研修医の基礎知識の差であった。具体的には、初期研修医が麻酔科の研修を終えてから来る場合と、そうでない場合の知識と技術の差、さらに救急科に在籍する時期による経験値の差、この違いによって、個人個人の対応力が明らかに異なっていた。この初期研修医が持っている経験値に応じて、教育方法や評価に関してより細かい個別対応を余儀なくされ、これも難しい問題となった。この問題に対しては、事前に初期研修医の基礎知識を測定し、その基礎知識に応じた複数のシナリオを用意すれば、解決可能であるという方法に思い至った。 また、会話分析に関しては、ERの治療中だけでなく、家族対応(インフォームド・コンセント)に関する会話のあり方についても実施している。これは、実問題として、ERにおいても最重要な問題の1つであり、ER内のシミュレーション教育を多角的に捉えて研究を進めることが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の観察と分析結果を利用して、よりリアリティのあるシミュレーション教育プログラムを複数作成すること、また、それを実際の教育手法として実施・評価することを最終目標とする。ER内のおけるシミュレーション教育とその具体的な実施方法、同時に継続的に取得し続けた実データの解析を踏まえ、ER内で実際に行われるシミュレーション教育の体系化を行いながら、研究の取りまとめを行う。 具体的には、昨年度まで撮りためた実際のER処置データ事例を基に、心肺停止例を中心に、実際の処置例から複数のシミュレーションのシナリオ作成を行う。その上で、月に1回のルーチンワークとして、実際のER内においてシミュレーション教育を継続実施し、その内容と評価手法を検討する。 昨年度1年間シミュレーション教育を継続実施し、振り返り教育の一環として実施直後に自分の実施動画を見ながら達成度を評価する方法について検討してきた。その際に特に問題となったのは、初期研修医の基礎知識の差であった。そこで、最終年度は、特に各初期研修医の基礎知識を事前に評価する方法を開発し、その知識に応じて、複数の教育シナリオから適合するものを選択し、評価手法にその基礎知識を反映する方法を研究する。これは、今まで同様、教育の標準化と適応力の高さを目指すものである。 また、実際のER内の動線評価に関しては、こちらも継続的にデータ取得し、シミュレーション教育に反映できるような解析を継続する。同時に、撮りためたシミュレーションデータの会話分析に基づいて、治療の際に必要となるコミュニケーション手法をシミュレーション教育内に組み込んでいく。そして、それを評価しながら、フィードバックを行い、教育内容の洗練化を図る。このようにシミュレーション教育として評価すべきポイントの整理を行い、最終的な研究の取りまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
先送りされた予算の主な内容は、産総研での人件費分となっています。これは、主に動線作成が、当初の予定より少なくなったことが原因です。シミュレーション教育は、継続して行いましたが、実際のデータ比較の手法検討に時間を割いたため、実データのデータ作成が当初予定をほど必要でなくなったためです。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年に送った金額は大きくありませんので、今年度は、データ作成の人件費として先送りした分を使いますので、全額問題なく予算を執行予定です。
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