研究課題/領域番号 |
25293401
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
波多 賢二 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (80444496)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピジェネテック / 軟骨細胞 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、軟骨細胞を蛍光タンパクでラベリングしたマウスから軟骨細胞を分離し、FACSによるセルソーティングを利用した軟骨細胞特異的遺伝子の発現プロファイリングを行った結果クローニングされた転写因子Foxc1の役割を中心に解析を行った。その結果、Foxc1は軟骨組織に強く発現し、骨・軟骨組織形成に重要な副甲状腺ホルモン関連タンパク(PTHrP)の発現を直接制御していることを見出した。さらに、Foxc1はCol10a1、Gli1およびPtch1などの骨・軟骨におけるIhh標的遺伝子の発現も協調的にその発現を促進した。その分子メカニズムとしてインディアンヘッジホッグのシグナル伝達分子Gli2のDNA結合能を増加させることにより骨格形成過程におけるIhhシグナルを制御していることが明らかとなった。Foxc1遺伝子の自然発症変異マウス(chマウス)、重篤な骨格形成異常を示し、さらにchマウス由来の初代軟骨細胞ではIhhシグナルとその標的遺伝子の発現が減弱していた。また骨格や歯の形成異常を示すAxenfeld-Rieger症候群の原因となる病的FOXC1変異(F112S)の機能解析を行った結果、F112S変異はIhhシグナルとの協調作用が顕著に抑制されていることが見出された。Foxファミリーに属する転写因子の多くはクロマチン構造を緩めることが知られていることから、Foxc1はエピジェネティクにIhhシグナルを制御することにより骨・軟骨形成を制御している可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は昨年度までに複数のアプローチでクローニングされた遺伝子の中で、軟骨細胞特異的に改良型GFP遺伝子を発現させたマウスとセルソーティングを用いた解析で同定した転写因子Foxc1に着目し解析を行った。生化学的解析、Foxc1遺伝子変異マウスおよびAxenfeld-Rieger症候群で観察される病的変異の機能解析により、骨・軟骨形成のエピジェネティク制御におけるFoxc1の重要性を明らかにすることができた。本研究結果はNature Communications誌に投稿し受理された。したがって、本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、平成25年度および平成26年度にクローニングされた転写因子の機能的役割の解明と骨・軟骨再生への分子基盤研究を引き続き進めていく。昨年度までに次世代シークエンサーおよびFACSによるセルソーティングを利用した軟骨細胞特異的遺伝子の発現プロファイリング、そして軟骨細胞分化におけるSox569の下流因子の探索をを行い複数の候補遺伝子を同定している。これら遺伝子の機能的役割を初代培養軟骨細胞を用いた生化学的解析およびマウスジェネティクスによる生体レベルでの解析を行う。 軟骨組織再生におけるエピジェネティクス機構の解明をさらに進展させるために、H27年度はDNAメチル化にも着目して実験を行う。軟骨細胞分化に伴ってDNAメチル化がどのように変動するかをヒト皮膚線維芽細胞ならびにヒト関節軟骨細胞からDNAを抽出し、DNAメチル化アレイを行い網羅的解析を行う。さらに、ヒト線維芽細胞およびヒト関節軟骨細胞からRNAを精製し、マイクロアレイ解析による遺伝子発現解析を統合的に解析することにより、軟骨細胞におけるDNAメチル化制御遺伝子をクローニングし、軟骨再生へと応用できる遺伝子をピックアップする。さらに、これら遺伝子の中から再生医療への応用が期待できるDNAメチル化転移酵素とその機能を制御する主分子化合物にも着目し解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は自然発症Foxc1遺伝子変異マウスの解析を行ったが、論文がアクセプトされたため年度途中でマウスの維持を中断した。その結果、マウスの飼育代や解析費用に若干の計画変更が生じたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度で使用する遺伝子工学試薬の購入に使用する予定である。
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