研究課題/領域番号 |
25293449
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
中山 優季 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主席研究員 (00455396)
|
研究分担者 |
小柳 清光 信州大学, 医学部, 教授 (00134958)
清水 俊夫 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (50466207)
長尾 雅裕 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (60466208)
望月 葉子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (80267054)
長谷川 良平 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究分野, 研究グループ長 (00392647)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 神経科学 / 難病看護学 / 意思伝達支援 / 生体信号 |
研究概要 |
初年度の計画は、意思伝達能力のステージ分類における各ステージ別追跡と適応評価、病理所見の特徴、メカニズム解析の開始であり、以下の成果を挙げた。 1.ステージ別経過追跡:A病院在宅人工呼吸者30名の継続追跡調査を実施。ステージ進行者で眼、耳、循環器等より多くの症状を呈し、より早期に人工呼吸器装着、完全四肢麻痺が出現していた。2.生体信号装置の適応評価:脳血流・脳波装置の定期的な試行を実施した。脳血流装置は、ステージ進行者でも維持できる例を確認した。脳波の装置は、ステージIでは90%以上の正答率を確保したが、進行者では、全過程の遂行が困難であった。3.ステージ別画像・生理学的評価:ステージVの対象10例では、後頭葉を除くほぼすべての大脳・脳幹の萎縮を認めたがその程度には差があった。さらにSEPで半数の症例でN20 が消失する一方、VEPでは対象すべてのP100が認められ、視覚路が保たれることが示唆された。4.病理学的検索:ステージ Iの長期例の検討により、進行が非常に緩徐で、運動ニューロン系の変性にほぼ限定され、典型的なsALSとは異なる一群が存在する可能性を報告した。 ステージVの症例では、高度な運動ニューロン変性と運動ニューロン系を超えた広汎な変性を呈したが、その病変分布には共通性と多様性があり、蓄積蛋白の違いでは分類できないことが判明した。保たれる神経経路の保全メカニズムについて、障害されやすい部位の神経細胞と、視覚路など保全されやすい部位の神経細胞との比較を行い、粗面小胞体の障害の程度に差がある事、すなわち、保全部位の神経細胞では粗面小胞体が比較的保たれ、易障害部位の神経細胞では粗面小胞体の減少が認められることを明らかにした。 以上の成果を、神経学会総会シンポジウム「ALSにおけるコミュニケーション障害とその対策」やA病院公開CPC等にて報告し、聴衆との意見交換を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの旧課題の成果を基盤に、経過追跡・画像、生理学的評価、病理的検索をより深める形で進行できている。 看護・臨床神経班では、計画に基づき、ステージ別の追跡調査を継続している。解析までには、より長い時間経過が必要であるが、データの蓄積を着実に行えている点において、順調に進展している。 技術班では、脳波装置に関して、在宅でのノイズ軽減方策について、成果をあげた。 病理班では、ステージI長期例における検索をすすめ、まずステージIの中でも、典型的なsALSとは異なる一群が存在する可能性を報告した。さらに、ステージVについては、複数施設における剖検脳の検索(計画追加)と、保全メカニズムの解明について計画通りに、検討した。結果は、運動ニューロンや脳幹被蓋など、障害されやすい部位の神経細胞と、視覚路、辺縁系(嗅覚路)、マイネルト基底核、室傍核、視索上核など、保全されやすい部位の神経細胞との比較では、粗面小胞体の障害の程度に差がある事、すなわち、保全部位の神経細胞では粗面小胞体が比較的保たれ、易障害部位の神経細胞では粗面小胞体の減少が認められることを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
看護班では、経過追跡調査の継続により意思伝達に影響を与える症状の蓄積、機種別適応評価を進める。主観評価を表出できない対象の反応をケア者がどう捉えケアに生かしているかの観察を継続し、課題を整理する。 技術班のうち、脳波BMI装置に関しては、H25年度新規に開発したノイズ除去システムが在宅療養中のステージIの対象に対して有用であることが確認された。一方、医療機器や電源に近い環境での脳波計測が避けられない病棟(病室)内での試用においてさらに強力なノイズ対策を行う必要があり、この問題の解決に取り組む予定である。また、ステージ進行者、特に眼球運動の障害の強い対象には画面上にメッセージの選択肢を並べる方式を適用することが困難であるため、刺激提示方式の改良を進める予定である。さらに、まだ市販化に至っていないが、HAL(Hybrid Assistive Limb)技術を用いた入力デバイスが開発中であり、市販化以降に、適応評価機種に加えていくことで、ステージ別の末梢での随意意図を検出する可能性とステージ別残存運動ニューロンとの関係についての追求が可能となるといえる。 臨床神経班では、引き続きステージ別画像・生理評価を蓄積し、病理班から提唱される拡大病変との関係を検討していく。 病理班では、ステージVで見られた病変・保たれた部位についてステージIからIVまでの症例についても神経細胞脱落・グリオーシス、免疫染色で確認出来る神経細胞質内封入体の分布について検討し、拡大病変が出現する過程を明らかにする。また、ステージVで、保たれる神経経路の保全メカニズムについて、蛋白合成能や、酸化ストレス、小胞体ストレスなどの方面から検討し、3年間でその保全メカニズムを解明して、ALSにおける神経細胞死を防ぐ方策を提言していく。 以上の成果を関係学会報告、論文発表により公表を進める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
計画と実支出額に相違が出たのは、物品費と旅費であった。 物品費のうち、生体信号装置の適応評価に関して、新たに評価対象候補となった機器(HAL sensor)の平成25年度内の市販化がされなかったため、次年度使用額が生じた。旅費に関しては、追跡対象者が主に都内であったこと、国内学会と日程が重なったため、国際学会への参加を見合わせたことなどによる。 HALsensorが市販され次第購入し、経過追跡対象者への評価機器の一つに加える。これによって、残存ニューロンの軸索終末における筋線維とのシナプスを仮説とし、この残っている筋線維の発火放電を感知することを実証することが期待される。さらに、ステージ別の病理所見での残存ニューロンとの相関関係を示すことでより根拠に基づく実証に寄与できるといえる。 また、経過追跡対象者への試用機器を充実させ、日差日内変動に応じた機器の適応評価を行っていく。 ステージ別臨床経過評価と病理評価の統合に関する初年度成果について、国際学会にて、報告を行う。
|