研究課題/領域番号 |
25300007
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館 |
研究代表者 |
臺信 祐爾 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・企画課, 課長 (80163715)
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研究分担者 |
市元 塁 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・企画課, 主任研究員 (40416558)
今津 節生 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・博物館科学課, 課長 (50250379)
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部・文化財課, 主任研究員 (80302066)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 考古学 / 美術史 / 東洋史 / 中国内蒙古自治区 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
大きな求心力を持っていた中国・唐の滅亡は、東アジア各地に文化の自立をもたらした。日本文化形成の軌跡をアジア史的観点から考えることを目指す当博物館は、中国北方の遊牧民族による国家・契丹(916-1125年・遼)に注目し、内蒙古自治区の内蒙古博物院及び内蒙古文物考古研究所との共同研究を約10年間にわたって実施してきた。10世紀初頭、モンゴル草原に興った契丹(遼)は、独自の文字(契丹大字・小字)を制定するとともに自らの遊牧文化を保持しながら国造りを進めており、唐からの文化的自立への指向をかいま見せている。一方では、唐文化の継承者としての自覚をもっていたことも知られている。こうした契丹の国家形成過程における重層性は、当時の支配者層が葬られた壁画墓の画題などの分析を通して、より鮮明となると考えられる。 唐滅亡後の周辺地域における文化の自立・継承・交流という観点から、契丹(遼)同様、独自の文字(西夏文字)を制定した西夏(1038-1227年)について、内蒙古自治区西端にあたるカラ・ホト(黒水城)の現地調査を実施した。 本研究着手時から希望していた、文物考古研究所などによる現地調査終了後、保存のために埋め戻された壁画墓室内壁画の現状調査などについては、調整がつかず断念した。そのため、昨年度に続き、保存処置が終了した五代・内蒙古清水河塔爾梁壁画墓類について、高解像度平面スキャナーを利用して、RGB環境下および赤外線による高精細画像データを集成した。 五代・内蒙古清水河塔爾梁壁画墓の調査報告論文が、『文物』に掲載されていることから、それらの掲載画像を、壁画墓の立面図に貼り付けるとともに、壁画墓室を外から見た様子を示すビューワーを試作した。現状では、掲載画像を利用した一部拡大作業に限られるが、高精細画像データを利用し、博物館展示室内において来館者が自由に操作できるよう、改良していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年8月に、内蒙古博物院で、内蒙古自治区内に所在する契丹壁画墓のうち、調査後保存のために埋め戻された壁画墓を再度開き、壁画墓室内部の三次元立体測量、高精細画像データベース作成事業の実施について協議した。しかし、上部機関における検討の結果、その実現は不可能となった。 そのため、同年11月の内蒙古博物院における高精細画像データ(600dpi)集成作業は、平成25年度に着手していた契丹時代に先行する、五代壁画墓からの剥ぎ取り壁画(内蒙古博物院にて修復作業実施済み)の継続となった。赤外線環境下においては、墨による下描き線がより鮮明に記録されるため、壁画作成の諸段階を解明する手がかりが得られるものと思われる。また、将来再修理にあたり、本調査時点の作品の状態に関するデータとして活用されることが期待される。 本計画構想当初より希望してきた剥ぎ取り作業実施前の壁画墓室内部の現状把握(三次元立体測量、高精細画像データ集成、蛍光X線分析など)については、中国国内の事情により実施できないこととなったが、契丹時代に先行する内蒙古清水河塔爾梁壁画墓壁画に関する高精細画像データから得られる情報は、契丹時代の壁画の特性についての重要な比較材料であり、今回の調査に欠かせない作業といえる。 2014年4月発行『文物』に掲載された上記五代・内蒙古清水河塔爾梁壁画墓に関する調査報告結果をもとに、同壁画墓内部および外部について回転・拡大などを行えるビューワーの開発を実施し、博物館展示室内で来館者が自由に扱いながら壁画墓内部にいるかのようなバーチャルな空間をつくることに成功した。 本研究の比較材料を集成するだけでなく、現地研究者と協議しながら、現地における最新の研究動向などについて、情報収集に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
慶陵(内蒙古巴林右旗北部の瓦仁烏拉山南麓に設けられた契丹第6~8代皇帝陵墓の総称)付近にある培葬墓2基に関する調査報告が、『内蒙古文物考古』2000年第2期に掲載されている。高精細画像データ作成作業時(平成26年11月)に、耶律弘世の壁画墓から2002年に剥ぎ取られた壁画断片について、高精細画像データを作成するよう、内蒙古博物院から要請があったため、平成27年度4月に、現地にて安全な作業環境のもと、壁画断片約10点について、RGB環境下と赤外線環境下における高精細画像データ集成作業に着手する予定である。あわせて、蛍光X線測定装置を用いて、壁画作成に使用された顔料に関する成分分析も実施する予定である。 平成27年度5月開催予定の、第2回京都大学-ボルドー大学共同シンポジウム文化財科学分科会において、本研究について発表することになっており、フランス人研究者らと高精細画像データの利活用やビューアー開発についての意見交換を予定している。 本研究期間中に集成した高精細画像のデータベースを整備し、博物館展示室内において来館者が自由に取り扱えるビューアーの実用化を図る。 また、内蒙古および国内の研究者を招聘し、本研究の成果について広く一般市民にもわかりやすい形で、報告するシンポジウムを開催し、来年度末をめどに、日中二カ国語による画像を含む成果報告書を刊行する。またビューアーによるデモンストレーションを、内蒙古博物院および当館のホームページでアクセスできるよう環境を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画通りの予算執行ができなかったことについては、大きく二つの要因(一、平成26年5月に予定していた内蒙古博物院との協議が、先方の都合で8月に先送りされたこと。二、調査後埋め戻された壁画墓の再開封および壁画墓内部の科学的調査(三次元立体測量、高精細画像データ作成、蛍光x線測定装置による顔料分析など)に関する上部機関への申請が同年10月に却下されたため、実施できなくなったこと)が挙げられる。 その結果、契丹壁画墓室内調査が不可能となり、予定していた人件費を含む調査関連費用や諸経費が発生しなかったため、当初予算額との差額が生まれた。
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次年度使用額の使用計画 |
支出されずに繰り越された予算は、剥ぎ取り壁画一点につき、数個のファイルに分かれている高精細画像データを統合して研究可能な状態に整備すること、RGB環境下と赤外線環境下で作成された高精細画像のデータベースを構築するための費用、一般の来館者にも使いやすいビューワーの開発、博物館展示室内における、壁画墓室の再現(実物大か、縮小版か、拡大版かについて、費用対効果をこれから検討する)、シンポジウムや報告書など、当初から予定されていた支出項目の中身の充実に振り向ける予定である。
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