研究課題/領域番号 |
25300015
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
奥村 順子 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (40323604)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラオス / 少数民族 / 健康希求行動 / 乳児死亡 / 死亡要因 |
研究実績の概要 |
平成26年度に引き続き,セポン郡の7村を対象として調査を行った.初年度は,11例の死亡報告があったのに対し,2年目である平成27年度には死亡報告は皆無であった.この差については,マラリアやデング熱などの流行や気候が影響しているのではないかと推測しており,平成28年度に実施予定の調査によりその関連を明らかにする. 7村における対象小児の身体測定については,測定者のスキルを高めて再度実施したところ,各村におけるStuntingの割合(-2 Z-Score未満)の幅は50% - 83% であった.Stuntingは長期にわたる栄養不良を反映するものであり,このカテゴリーに該当する小児は免疫力が低下しており感染症にも罹患し易いことが知られていることから,Stuntingを起こす要因を探った. 最もStunting 小児の割合が高い村(83%)とその割合が最も低い村(50%)の特徴を比較したところ,前者では,母親が農産品の販売のため忙しくしており,医療施設および市場へのアクセスがよく,後者では,その逆の傾向が見られた.また,母親の栄養に関する認識及び行動につき聞き取りを行ったところ,前者では紙パック入りのジュースなどの加糖飲料を購入し,小児に与えている者の割合が想定以上に多く,その分小児の食事量が減少していることが示唆された.この質問紙調査は,対象小児の身体測定データと連結可能なものであるが,データを英訳する際に,連結するコードが失われたため,目下,オリジナルデータを用いてデータの連結作業を行っているところである.この作業が終わり次第,解析を行い本研究の対象小児コホートにおける栄養問題につき取りまとめる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年10月に4村で5歳未満児のコホート調査を開始し,平成26年6月には医療施設へのアクセスが極めて悪く,予防接種率も許容できないほど低い地域にある3村を追加し,7村における1年間のデータ収集を実施することができた.263名の小児を2週間ごとに1年間に渡り疾病罹患の有無を追跡したことから得るものは大きい.データ収集システムも当初は紙ベースのものを現地の保健局で集めてデータ入力する方法をとっていたが,携帯電話によるデータ収集システムを立ち上げ,入力から日本におけるデータ受領までの時間を短縮することにも成功した.特段の介入を行ってはいないが,現地において村落保健ボランティアに対して結果のフィードバックを定期的に行ったことで,彼らの保健に関する意識に変化が見られてきた.例えば,体のしくみや健康と病気について学びたいというリクエストが彼らから出て来たことは,想定外とはいえ非常に喜ばしいことである.本研究が終了する段階では,彼ら自身で小児の健康を推進する手段を提案できると考える. 以上の点から,いくつかのデータ収集方法の変更はあったものの,おおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
死亡報告例がゼロになったことから,その理由を探るため,マラリアやデング熱などの流行の記録,ここ数年来活発化しているマラリア対策の活動内容などとあわせて検討する.ただし,個々の対象地域(7村)には流行疾患等の診断に基づく記録がないため,セポン郡全体をカバーしているセポン郡立病院の患者受診記録から流行疾患等の推移を調査開始時にさかのぼって調査し,疾病流行が見られた時期と対象小児の死亡時期との相関を見る.具体的な活動としては,下記の通りである. (1)これまでの対象地域において,新たに出生した小児も適宜加えた小児コホートを対象に疾病罹患調査を継続する. (2)セポン郡立病院および近隣診療所における5歳未満児の受診記録から疾病の流行等の推移に関するデータ収集を調査開始時期にさかのぼって行う. (3)マラリアやデング熱等は気象状況にも影響を受けることから,これらのデータ収集も調査開始時にさかのぼって行う. (4)流行疾患については,その対策活動にも影響を受けることから,調査対象地域における保健医療活動の記録を可能な限り収集する. (5)上記の結果を小児コホートの疾病罹患頻度もしくは死亡数などとあわせて総合的に解析し,影響要因を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
現地の疾病対策センターとの業務委託契約を開始したのが,平成26年6月で,それから平成27年6月中旬までの1年間の契約となったことに起因し,契約更新時期が毎年6月となっている.科研費による研究期間は年度毎となっているため,最終四半期の契約額の支払いのため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
現地の疾病対策センターとの業務委託契約を今年度も継続することで,引き続き本研究の一環で教育・養成した調査員によるデータ収集を行なうことができる.昨年度の契約期間は1年間で平成28年6月中旬に契約が終了するため,平成27年度から持ち越した研究費を最終四半期の契約費用及び平成28年度の契約更新と現地研究倫理審査更新を目的とする研究者の渡航費用に充てる.
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