研究課題/領域番号 |
25300027
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中川 真 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40135637)
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研究分担者 |
平田 オリザ 東京藝術大学, 社会連携センター, 教授 (90327304)
藤野 一夫 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20219033)
岩澤 孝子 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40583282)
梅田 英春 静岡文化芸術大学, 人文・社会学部, 教授 (40316203)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会包摂型アーツマネジメント / コミュニティアート / 多民族共生 / 共助 / 伝統知 / 市民知 |
研究実績の概要 |
現地調査については2014年6月にインドネシアで行われた「創造音楽祭」がメインとなった。これは2006年のジャワ島中部大震災の後に始まった「子どもの未来」プロジェクトであり、社会問題を創造的に解決するための予備的教育の効果が高いことが確認された。 社会包摂系のアジア型アーツマネジメントのネットワークづくりに資する第9回アジアアーツマネジメント会議を、国際交流基金との共催でクアラルンプールにて開催した。多民族共生政策のなかに潜む歪みを、アーツマネジメントによって克服する試みが多く紹介され、本研究の課題と直結するものであった。と同時に、課題の多様さも際立ち、それに対応する方法論の確立が直近の目標であることが確認できた。発表資料や論考などのアーカイブ化を進め、その一部をウェブサイトで公開した。 本研究と関連の深い都市問題を扱うフォーラムをバンコクとジョグジャカルタで開催し、経済成長が順調な東南アジアの各都市において、繁栄の陰に隠れがちな問題、例えばLGBTと呼ばれるジェンダーにかかわること、抜け出すことのできない貧困、差別に苦しむ少数民族の人々など、多層な問題に対して文化的側面からアプローチし、解決をはかろうとする研究について討議を深めた。 社会包摂型アーツマネジメントの理論化については、イギリスのコミュニティアート、オーストラリアの Community Cultural Development の理論を検討しながら、アジアへの適用可能性について試論の構築を開始した。現在見られるのは、欧米型アーツマネジメントをアジア社会にカスタマイズするという折衷型が多いが、その現実的処理を認める一方で、理論的なレベルでの、よりアジアの伝統知に根ざす方法を見出そうとした。それは「ハイレベルなアマチュア」すなわち専門化せず、コミュニティ成員の多くが高いクオリティでアーツマネジメントに関わり得る方法を確立することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画より進捗している部分と遅れている部分が混在しており、トータルで考えると、おおむね順調に進行中であると自己評価できる。 進捗しているのは、アジアアーツマネジメント会議の充実である。これは本研究の実践的プラットフォームというべき部分で、研究者と実務家との交流、研究の交換といった目的をもつが、2014年度のクアラルンプール会議では、20名以上の発表者、200名近い参加者を得て、予想以上の人的交流ならびに情報交換を行うことができた。また、加えて、関連フォーラムをバンコクとジョグジャカルタで開き、その報告書の編集もできたことは、大きな進捗といえる。 逆に、計画より遅れているのが、各地での現場フィールドワークであり、2014年度はインドネシアのみにおいて行った。その一因に、研究分担者の1名(岩澤孝子)が年度の後半に本務校からの派遣で海外渡航したためである。しかし渡航先がタイであったため、実際にはタイでのフィールドワークが順調に実施されたのであるが、そのために科研費を使わなかったため、見かけ上はフィールドワークが弱かった、ということになっているのである。 以上の経過から、本年度はおおむね順調に進行中と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現地フィールドワークについては、インドネシアおよびタイにおいて継続する。インドネシアでは、2015年6月に開催される「創造音楽祭」の継続調査が中心となる。タイでは、バンコク市内における社会包摂系のアートNGO並びに任意団体の調査を行う。特に2010年よりタイ全国規模で実施されている「青少年の芸術文化活動によるコミュニティ再興プロジェクト」の中心となっているD Jung Space Project(プーンティーニー・ディーチャン・プロジェクト)の調査が軸となる。 2015年度のアジアアーツマネジメント会議をマニラにて開催する。その際に、フィリピン大学などの研究機関との交流を深めるとともに、実務家・研究者のネットワークのなかにフィリピンを確実に位置づける。フィリピンの社会包摂型アーツマネジメントは活発に実施されているが、これまで日本側からのまとまった調査はなく、新しい情報が蓄積されることが期待される。また、2014年度に効果のあった、バンコク、ジョグジャカルタにおけるフォーラムも実施する。このフォーラムは、本研究の成果発表の大きなメディアとなるであろう。 アーカイブ化が若干遅れているため、これに注力するとともに、3年間の調査のまとめとして各自が論文を執筆し、学術誌に投稿、掲載をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、二人の研究分担者の分担金である。 平田オリザ氏については、所属が大阪大学から東京藝術大学に移ったため、研究環境の変化によって使用するに至らなかったが、クアラルンプールへの会議参加など、共同研究の実質に影響を与えるものではなかった。 岩澤孝子氏については、年度の後半(6ヶ月)に本務校より海外研修を行うこととなり、前半の6ヶ月で科研費を使用する機会をもたなかったため、繰り越しという事態になった。但し、科研費は使わなかったものの、出張先がタイであり、科研の計画にあったタイ調査は行うことができた。そういう意味では、科研への間接的な貢献は果たし得ているといえる。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分については、当初、消耗品購入などに充当する予定であったが、本年度については、それに充てることはやめ、旅費へ算入することとした。 本研究においては、フィールドワークや海外における会議への参加が最も重要な部分となっており、それを減額することはできないためである。それによって消耗品購入等について若干の支障は出るが、相対的に少額であり、大きな影響はないと考えられる。
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