研究課題/領域番号 |
25300031
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
麓 慎一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30261259)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロシア / イギリス / アメリカ合衆国 / 日本 / 海洋 / 海獣業 |
研究実績の概要 |
平成28年度はロシア・アメリカ合衆国・イギリスにおいて海外学術調査を実施した。第一のロシアではサンクト・ペテルブルの文書館と図書館で史料を収集した。ロシア国立海軍文書館では太平洋北部における海獣猟の保護のために巡航していた軍艦に関する史料を調査した。また、同館所蔵の「露米会社と北アメリカにおけるロシア領の歴史の史料」(ロシア海軍所蔵番号1375)の目録をもとに史料を閲覧した。ロシア国立歴史文書館では財務省史料から関係文書を検索し複写を依頼した。ロシア国立大統領文書館とロシア国立図書館では当該研究テーマの先行研究を調査した。 第二にアメリカ合衆国の国立文書館では太平洋北部における海獣業とアラスカ関係の文書を調査した。この調査の過程で日本・ロシア・イギリス・アメリカ合衆国で海獣業についての規制条約が締結されたあとにアラスカ地域の当該漁業者にどのような政策をアメリカ政府が行ったのか、という点について知見を得ることができた。 第三にイギリスの国立文書館ではアラスカ売却についての史料調査を実施した。さらにイギリスの外交に関する文書、特にイギリスとロシア関係の文書を中心に調査を実施した。後者は膨大な分量があり平成29年度にも調査を実施してできるかぎり全ての史料を調査したいと考えている。 以上の三点が海外調査の実績の概要である。この調査を補完する作業を国内で実施した。国立国会図書館ではカムチャッカ半島・コマンドルスキー諸島などの日本の調査活動についての史料群を収集し分析した。また『北海道毎日新聞』・『函館新聞』などからも関係史料を収集した。 ロシア領アメリカ(アラスカ)の経営と売却が環太平洋地域に与えた影響を明らかにした。これまで調査を進展させることができていなかったアメリカ合衆国の国立公文書館での調査を実施できたことで研究を大きく進展させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は帝政ロシアによる露領アメリカ(アラスカ)経営と環太平洋における海洋秩序の変容の関係を解明することである。 「おおむね順調に進展している」と評価できる根拠は二点ある。第一は、アメリカの国立文書館の露米関係史料と1867年以後のアラスカ地域についての調査を予定通り進展させることができた点である。第二は、露米会社のロシア領アメリカ(アラスカ)経営の弱体化とサンフランシスコに1840年頃まであった露米会社の施設の撤退が環太平洋の海洋秩序にどのような影響を与えたのか、という新たな視角を得ることできた点である。この点については、本研究による史料調査によってだけでなく日本歴史民俗博物館における研究員としての活動によって示唆されたことを付け加えておきたい。 当初の研究計画に記した調査はほぼ順調に実施できているが、とりわけ以上の二点が研究の「現在までの進捗状況」の点において自己評価できる点である。 「おおむね順調に進展している」という評価に止まっているのはロシアの国立外交文書館における調査が進展していないことである(改装のために長期間にわたって開館していなかった)。ロシア国立大統領文書館はロシア国立外交文書館の史料を一部、デジタルデータで収集しているのでこれを利用したが十分とはいえない。サハリン州立文書館がサハリン島に関する国立外交文書館所蔵史料を複写で収集し公開している、という情報を得たので、この複写史料にもアクセスして史料を補充していきたい。また、カムチャッカ半島やサハリン島など地方の文書館での調査が進展していな点が問題点としてあげられる。平成29年度は、ロシア国立外交文書館とロシア極東における文書館での調査を実施して「当初の計画以上に進展している」と自己評価できるように研究を進展させたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は最終年度である。「現在までの進捗状況」で記載した問題点を克服することを最終年度の課題としたい。第一に、ロシア国立外交文書館での調査である。本研究課題についての史料が所蔵されている点についてはロシア・アメリカ関係史の史料集などから確認できているので、それを参考に調査を実施したい。第二に、カムチャッカ半島およびサハリン島などの地方の文書館において調査を実施して、露領アメリカ(アラスカ)経営がこれらの地域に与えた影響を解明したい。ウラジオストックやサハリン島のロシア人研究者の著作から史料の所在については把握している。第三は、イギリス国立文書館においてイギリス外交、とりわけイギリス‐ロシア関係とイギリス‐アメリカ合衆国関係の史料群を調査し、写真撮影を行う。すでに平成28年度の調査によって重要な史料については写真撮影を実施した。本年度は特にイギリス‐ロシア関係の史料について収集した史料の内容を検討し、補足的な調査と写真撮影を実施する予定である。第四は、アメリカ合衆国の国立文書館における調査であるが、アメリカ海軍の軍艦の活動記録を中心に調査を実施する予定である。平成28年度の調査で、この海軍の軍艦の記録の中に本研究テーマに関係する史料が存在することを文書館の職員からレクチャーされたが、すでに調査期間の最終段階だったため所在の確認と概要を調査したに止まった。これらの史料はマイクロフイルムで閲覧でき、写真撮影も許可されていることがら短時間の間に必要な箇所を撮影できる。 以上の海外調査が最終年度の研究の推進方策である。これまでの調査によって本研究が太平洋の北方海域だけなくアメリカ大陸の西海岸地域・ハワイ・小笠原などのより南方の海域にも影響を与えていたことが判明したので、平成30年度の最終年度の研究を踏まえてさらに研究を発展させるために新たな科学研究費を申請したいと構想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年2月にロシアの歴史文書館において依頼した複写史料が会計年度を越えた4月にに送付されたことが「次年度使用額」覧が生じた理由の一つである。また、ロシア国立海軍文書館において依頼した複写史料が通常の料金で入手できたこともその理由である(複写期間が短い場合に徴収される加算料金を支払わなくて済んだ)。また、アメリカ合衆国における調査では当初、マイクロフイルム史料を紙焼きする予定であったが、写真撮影が許可されたので、複写代金などを支払う必要がなくなった。以上の点から次年度の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額分は平成29年度の海外調査の旅費と史料の複写代金として執行する予定である。
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