ペルー中部・北部の諸河谷流域にて紀元前3000~50年頃にかけて、神殿建築を中核とする定住村落群が登場した。これがアンデス文明の始まりの画期とされる。近年とくに土器の導入に先立つ「先土器神殿」の発見が相次ぎ、各河谷の「最初の神殿」への関心が高まっている。しかし発掘規模の小ささや絶対年代測定の不徹底により、先土器神殿の編年の遺跡間・地域間比較が遅れており、また「神殿はなぜ最初にその地点に成立したのか」という根源的な問いに対する実証的研究が不十分であった。研究代表者は本研究に先立って、ペルー北部ヘケテペケ川中流域のモスキート平原に分布する遺跡群が、流域最古の神殿群であるとの見通しを得ていた。本研究は測量・発掘・年代測定・景観分析によって、その編年および居住域などを含めた地域社会の動態を包括的に解明し、さらに他の河谷との長距離交易システムに着目することで、アンデス文明の形成過程の特徴を明らかにする計画である。同じく代表者をつとめる「ペルー、ワヌコ市の遺跡発掘:神殿の起源を巡る編年研究と、その成果への現代的関心」(課題番号15H00713)および「ワヌコ盆地の古代と現代:アンデス文明形成期の神殿遺跡と地域社会」(課題番号17H05110)によって、ペルー中部山地ワヌコ盆地にて先土器期に始まる神殿遺跡群を調査しており、双方を比較する視点から成果を発表してきた。また東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室と連携し、アンデス文明の遺物・遺構の編年の精緻化を進めた。 平成26年と平成27年の発掘で、「モスキートZ」をはじめ多数の神殿建築群と、用水路と見られる遺構群や耕作地と考えられるテラス群を発掘し、放射性炭素絶対年代測定に必要なサンプルを採取した。平成28年にはペルー文化省によるサンプルの輸出許可が下りなかったが、平成29年度に許可を得て日本に輸出し、研究を完了した。
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